記事・レポート
「したたかな生命~進化・生存のカギを握るロバストネスとは何か~」
更新日 : 2009年03月17日
(火)
第12章 糖尿病の仕組みは、ボーナスに置き換えるとよく分かる
竹内薫: そろそろパート2のトークに入りたいと思います。今日ここでトークをしなければいけないということで、この本『したたかな生命』を復習したのですが、糖尿病のところがちょっと分かりにくいかなという気がしたのです。それは僕の知識が足りないからかもしれないのですが、自分自身がメタボと言われてしまったということもあって、糖尿病のことをもう少し追求したいなと思います。
先ほどの骨格筋細胞の話などは、生命科学系の方はパッとお分かりになるのだろうと思うのです。それで、自分なりに理解できる、卑近な例というのを考えてみました。
例えば、僕がお金を稼ぎます。それを全部使ってしまうとまずいので、貯金をします。ボーナスが出たとき、何十年か前だったら会社に銀行の人が来て、「貯金しましょうね」と言って持っていった。血中の血糖値をお金と考えると、インスリンというのは銀行の人が徴収に来るみたいな、そんなイメージでいいですか。
北野宏明: そうですね。
竹内薫: 一応、蓄えるんだけれど、全部蓄えてしまうと、いざ現金が必要なときに取り崩せない。それが致命的になったりする。例えばiPhoneが買えないとか(笑)。それなので、自分のところに多少キャッシュフローを蓄えておかなければいけない。それが緊急時の方(神経細胞や免疫細胞)にいく……そんな感じで構いませんか。
北野宏明: ええ。
竹内薫: それが生物系で起きているということなのですが、会社もそうですよね、会社もいろいろ不動産として持っていたりするんだけれども、いざというときのキャッシュフローがないと緊急事態に対応できない。それが神経細胞や免疫細胞の回路という感じで構いませんか。
北野宏明: キャッシュフローが潤沢だったらば別に構わないけれど、あまりないときに「いや、ため込んでもどうにもならないだろう。給料を払えないだろう」みたいな話になってしまうわけですよね。
竹内薫: ですよね。現在はそういう意味では、麻痺してしまっている状況ですか? インスリン抵抗性という言葉がちょっと理解しにくいのですが。インスリンに抵抗する?
北野宏明: インスリンが出たときに血糖値が下がるというか、グルコースを取り込むんですね。それでインスリンがあってもグルコースを取り込めないという現象を「インスリン抵抗性」と言います。インスリンの作用に対して抵抗をするということです。
竹内薫: なるほど。じゃあ、さっきの卑近な例でいくと、きょうボーナスが出ました。そのとき……
北野宏明: 銀行員が来ても貯金をしない、銀行員抵抗性です(笑)。
竹内薫: そういうことですね。それが起きてしまっている、そういう感じでね。
北野宏明: ええ、これが1つのメカニズムです。ただし、特に東洋人の場合は、ちょっと気をつけておかなければいけない。なぜかというと、すい臓のベータ細胞からインスリンをつくるのですが、それが機能しなくなるのが結構早いんです。アメリカの糖尿病の人というか、『太りゆく人類』の表紙みたいな、すごい肥満の人がいますよね。ああいう人は日本では見かけないじゃないですか。
竹内薫: そう言われてみれば、そうかもしれない。
北野宏明: 食べ物の違いもあるけれど、日本人の場合はあそこまでいく前にインスリンが出なくなって、それどころじゃなくなっちゃう。これは僕が確認したわけではなく、そういうことを言っている研究者がいました。それはちゃんと確認したわけではないのですが、何となく説得力があるような気がしましたね。
日本人の糖尿病の場合はインスリン抵抗性だけではなくて、すい臓のベータ細胞の機能、インスリンを出す細胞の機能が欧米人に比べて、割と早い段階でやられるリスクが高い。
(その13に続く、全23回)
先ほどの骨格筋細胞の話などは、生命科学系の方はパッとお分かりになるのだろうと思うのです。それで、自分なりに理解できる、卑近な例というのを考えてみました。
例えば、僕がお金を稼ぎます。それを全部使ってしまうとまずいので、貯金をします。ボーナスが出たとき、何十年か前だったら会社に銀行の人が来て、「貯金しましょうね」と言って持っていった。血中の血糖値をお金と考えると、インスリンというのは銀行の人が徴収に来るみたいな、そんなイメージでいいですか。
北野宏明: そうですね。
竹内薫: 一応、蓄えるんだけれど、全部蓄えてしまうと、いざ現金が必要なときに取り崩せない。それが致命的になったりする。例えばiPhoneが買えないとか(笑)。それなので、自分のところに多少キャッシュフローを蓄えておかなければいけない。それが緊急時の方(神経細胞や免疫細胞)にいく……そんな感じで構いませんか。
北野宏明: ええ。
竹内薫: それが生物系で起きているということなのですが、会社もそうですよね、会社もいろいろ不動産として持っていたりするんだけれども、いざというときのキャッシュフローがないと緊急事態に対応できない。それが神経細胞や免疫細胞の回路という感じで構いませんか。
北野宏明: キャッシュフローが潤沢だったらば別に構わないけれど、あまりないときに「いや、ため込んでもどうにもならないだろう。給料を払えないだろう」みたいな話になってしまうわけですよね。
竹内薫: ですよね。現在はそういう意味では、麻痺してしまっている状況ですか? インスリン抵抗性という言葉がちょっと理解しにくいのですが。インスリンに抵抗する?
北野宏明: インスリンが出たときに血糖値が下がるというか、グルコースを取り込むんですね。それでインスリンがあってもグルコースを取り込めないという現象を「インスリン抵抗性」と言います。インスリンの作用に対して抵抗をするということです。
竹内薫: なるほど。じゃあ、さっきの卑近な例でいくと、きょうボーナスが出ました。そのとき……
北野宏明: 銀行員が来ても貯金をしない、銀行員抵抗性です(笑)。
竹内薫: そういうことですね。それが起きてしまっている、そういう感じでね。
北野宏明: ええ、これが1つのメカニズムです。ただし、特に東洋人の場合は、ちょっと気をつけておかなければいけない。なぜかというと、すい臓のベータ細胞からインスリンをつくるのですが、それが機能しなくなるのが結構早いんです。アメリカの糖尿病の人というか、『太りゆく人類』の表紙みたいな、すごい肥満の人がいますよね。ああいう人は日本では見かけないじゃないですか。
竹内薫: そう言われてみれば、そうかもしれない。
北野宏明: 食べ物の違いもあるけれど、日本人の場合はあそこまでいく前にインスリンが出なくなって、それどころじゃなくなっちゃう。これは僕が確認したわけではなく、そういうことを言っている研究者がいました。それはちゃんと確認したわけではないのですが、何となく説得力があるような気がしましたね。
日本人の糖尿病の場合はインスリン抵抗性だけではなくて、すい臓のベータ細胞の機能、インスリンを出す細胞の機能が欧米人に比べて、割と早い段階でやられるリスクが高い。
(その13に続く、全23回)
※この原稿は、2008年7月3日に開催したRoppongi BIZセミナー「したたかな生命~進化・生存のカギを握るロバストネスとは何か~」を元に作成したものです。
※本セミナーで取り上げている病気や疾患などの説明および対処方法は、「ロバストネス」の観点からの仮説です。実際の治療効果は一切検証されていません。講師およびアカデミーヒルズは、いかなる治療法も推奨しておりませんし、本セミナーの内容および解釈に基づき生じる不都合や損害に対して、一切責任を負いません。病気や疾患などの治療については、信頼できる医師の診断と指示を必ず仰いでください。
したたかな生命
北野 宏明, 竹内 薫オーム社
「したたかな生命~進化・生存のカギを握るロバストネスとは何か~」 インデックス
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第1章ニューヨークの大停電で、機能不全に陥ったホテルと平常通りだったホテル
2008年10月08日 (水)
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第2章「ロバストネス」の定義とは?
2008年10月16日 (木)
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第3章なぜボーイング777は、同じ機能のコンピューターを3つ搭載しているのか
2008年10月28日 (火)
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第4章 相手と連絡を取りたいとき、ロバストなコミュニケーションしてますか?
2008年11月06日 (木)
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第5章 安定して強くなるタイプと、不安定になって強くなるタイプ
2008年11月18日 (火)
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第6章 A社とB社、どちらがロバストか?
2008年12月01日 (月)
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第7章 全部に対してロバストというのはあり得ない
2008年12月15日 (月)
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第8章 我々が病気になるのは進化の必然
2009年01月26日 (月)
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第9章 低体重で生まれた子どもは、大人になると糖尿病になるかもしれない?
2009年02月13日 (金)
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第10章 「がん」を殺そうとすればするほど、「がん」は進化する
2009年03月03日 (火)
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第11章 病気を治すというのは多様性との戦いである
2009年03月10日 (火)
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第12章 糖尿病の仕組みは、ボーナスに置き換えるとよく分かる
2009年03月17日 (火)
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第13章 会社組織のロバストネスとは?
2009年03月25日 (水)
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第14章 時速300kmで走るF1カーは、オフロードを走れない
2009年04月02日 (木)
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第15章 アルバイトの個人差が味に影響しないようにする
2009年04月20日 (月)
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第16章 人間が単細胞生物だったら、生き延びられない
2009年05月11日 (月)
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第17章 地球温暖化から考える、環境変化に対するロバストネス
2009年05月28日 (木)
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第18章 今世紀の温度変化は、過去の大絶滅のときと同じくらいのレベル
2009年06月16日 (火)
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第19章 二酸化炭素も怖いが、メタンの方が影響は大きい
2009年07月03日 (金)
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第20章 地球は気候変動に対してロバスト。問題は、人間がロバストじゃないこと
2009年07月22日 (水)
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第21章 食料を原料にしたエタノールは、環境に優しくない
2009年07月23日 (木)
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第22章 エセのエコに騙されるな
2009年07月24日 (金)
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第23章 サンゴ礁が絶滅すると、海洋資源の過半数がなくなる
2009年07月27日 (月)
該当講座
大腸菌、癌細胞、ジャンボジェット機、吉野家、ルイ・ヴィトン、一見するとばらばらなこれらのものには共通点があります。それが「ロバストネス」。「頑健性」と訳されることの多い言葉ですが、その意味するところはもっとしなやかでダイナミックなものです。システム生物学から生まれたこの基本原理は取り巻く環境の幅広い....
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