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これからの東京~ビジネスと感性が融合する都市像~

更新日 : 2008年03月11日 (火)

第15章 自由な発想や発展を阻むのは、日本の古い法風土

米倉誠一郎_隈研吾_竹中平蔵
竹中平蔵: 今のお話と部分的に関連すると思うのですが、例えば、日本では私有財産に対する権利がかなり強く保護されています。

私は千葉県の別荘地に小さな別荘を持っていますが、建築協定はすごく控えめ。建築協定で屋根の色と外壁の色ぐらい統一すれば、もっと綺麗な街になるのにと思うのですが、「私有財産を尊重する」という建前で建築協定はそこまで踏み込まない。アメリカの住宅地や別荘地だったら違うだろうな、と思うんですね。

隈さんがおっしゃった容積率や建ぺい率についても、基本的には同じ考えなわけで、行政は私有財産に関して妙に自制的なんです。さらに突き詰めれば日本の法風土の壁があると思います。必ず成文法に基づいてやらなければならない。成文法ができない限りは何もできない。しかし、世の中はどんどん進歩しています。「とにかくやってみて、問題が起こったら裁判で決着をつける」というやり方のほうがはるかに迅速にいく。個別の判断をルール化していく慣例法の考え方です。

しかし、日本はなかなかそういう法体系にならない。裁判も簡単に起こせないし、裁判も判決までに長い年月がかかる。こうした日本の古い法体系が、これからの経済社会の発展の足を引っ張るんではないかと危惧しています。

米倉誠一郎: 日本は全部、事前チェックですよね。しかし、すべてを事前チェックするのは不可能です。ルールをオープンにして、事後チェックで問題を指摘するほうがいいです。何一つ問題がないようにならない限り「GOを出さない」としたら、何もできないし、何も進まない。

竹中平蔵: 重要なのは「事前の裁量ではなく、事後のチェック」ということですが、実際に日本の金融市場では違うことが起こっています。金融庁の行政処分の数は3倍になっている。私が金融担当大臣になった頃は、金融庁は行政処分を非常にためらっていたんですが、今は3倍です。

ただ、処分の基準がよくわからない。海外の投資家から見ると「これでは不安で東京に投資できない」という大きな問題を引き起こしている。処分するのはいいのですが、処分のルールを明確化しないと予見可能性が出てこない。ルールを明確化することで、予見可能性をきちっとつくっておくことが大変重要なことだと思いますね。

それでもわからないことはたくさんありますから、そこはやってみて速やかに判例を出す。そういう仕組みが必要です。しかし、霞ヶ関改革のなかで、法務省の改革が一番遅れていてなおかつ難しい。やっかいな問題として日本の肩にかかってくると思います。

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