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これからの東京~ビジネスと感性が融合する都市像~

更新日 : 2008年02月18日 (月)

第7章 毎朝毎晩350万人が通勤する、こんな都市は世界に類がない

隈研吾
竹中平蔵: 数年前、日経センターが「アジアの都市の競争力比較」をしたんですが、ほとんどの項目で東京が1位です。例えば、一人当たりの所得はもちろん1位、一人当たりの財政規模も1位。ところが1位じゃないものもいくつかあるんです。

1つは、「人材」。定義の仕方でも変わるので、もっと多元的な議論をする必要はあるとは思いますけれども、人口の中に占めるPh.D.保有者、マスター保有者、高等教育機関を受けた人の数とかを総合的に見ると、1位は中国のシンセンで、東京は2位でした。

公務員の比率も意外に高い。北京ほどではないですけれどね。一つは東京が政治的な中枢管理機能を持っているからでしょうが、まだまだ日本は「大きな政府」なのかもしれません。

東京が優れているのは住民一人当たりの交通事故死の数がダントツに低いことです。単に強盗に襲われないだけではなくて、人々が安全に暮らせる仕組みがあるんだと思いました。

一方、東京で不便なのは「移動」です。よく「東京は高速の大量交通機関が発達している、地下鉄が便利だ」と言われます。確かに地下鉄の路線は多いけれど、ニューヨークの地下鉄に比べてエクスプレスがない。ニューヨークの地下鉄は複々線でエクスプレスで行くから早い。東京はどこへ行くにも時間がかかる。郊外から通勤も大変に時間がかかる。

少し古いデータですが、毎日、郊外から山手線内に350万人ぐらいが流入しています。これは静岡県の人口と同じくらい。毎朝、静岡県の人口がわっと東京の中心に来て、夕方になるとわっと帰って行く。米倉先生みたいに帰らない人もいるかもしれませんけれども(笑)。

そういう都市構造はどうなんでしょう。今、都心回帰してますが、変わっていくのかどうか。変わっていくのがいいことかどうかも含めて、隈さんはどうご覧になりますか。

隈研吾: 東京の交通は公共に依存していて割合スムーズじゃないかと僕は思います。それよりむしろ、都心部の魅力が低いことが問題だと思います。アジアのいろいろな都市と比較しても、都心部の魅力が少ない。だから郊外に帰っちゃう。

もちろん、ニューヨークだって立派な郊外があって、割合早く帰る人はいますけど、東京みたいに一斉に郊外に帰る都市は世界でも非常に珍しい。東京の都心も今、変わりつつありますが、まだまだですね。

竹中平蔵: 私の生活感覚の話で申し訳ないんですけれど、霞ヶ関で仕事をして「へえ、すごいな。東京ってこんなになってるの」とびっくりしたことがいくつかあるんですよ。

そのひとつは東京の中心部はものすごく車の移動が便利なこと。明らかに地下鉄より早い。ニューヨークは道が渋滞するし、地下鉄にはエクスプレスがあるから地下鉄のほうが速いんです。しかし、東京の中心部の道路、例えば内堀通り、外堀通りなどは車線が広くて、時速80キロとか90キロで車が走っている。千葉のタクシーの運転手に聞いたら「東京へ行くのが怖い」と言うんですよ、みんなスピードを出すから。

霞ヶ関にいると、役人が中心になって街をつくったことがよくわかります。霞ヶ関はどこに行くにも便利です。分単位で時間を読めるから、国会でも閣議でも絶対に遅れない。霞ヶ関の真ん中から高速道路に乗れて成田でも羽田でもどこでも行けちゃう。

私の教訓は「都心に住んで車を持てば、ものすごく便利だ」(笑)。多分、こんな大都市ってあまりないんじゃないですか。そのしわ寄せが郊外に行っているような気がします。都心回帰は当然ですね。これからも大きな流れになっていくだろうな、と思っているんです。

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