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ライフスタイルサロン ~遊びをせんとや生まれけむ『ぼくの複線人生』~

カルチャー&ライフスタイル
更新日 : 2008年04月14日 (月)

第12章 人間はマルチタスク。2つ3つのことは、同時処理できる

竹中平蔵_福原義春

福原義春: 一度に3つも4つものことをやっていたら頭がおかしくなるんじゃないか、みんな中途半端になるんじゃないかとよく言われます。けれど、どうも人間の情報処理能力というのは、はるかに私たちが考えているより大きいようで、同じ時間に2つか3つのことは処理可能のようです。

日銀の政策委員をやられていた両角良彦さんという方が、ナポレオンの本を何冊も書いておられます。この方だって、日銀にいて仕事をしているときには、ナポレオンのことは絶対に考えてない、という保証はないんでね(笑)。けれど、日銀の仕事を怠けられていたことも絶対ないんですね。

このように考えていくと、同じような時間にいくつかのことを同時にできるということが、おわかりいただけるのではないでしょうか。これは鍛錬だと思うのです。それから、時間の使い方、むだな時間を使わないようにしようというのもあると思います。

森鴎外がだんだん忙しくなってきて、小説を書く時間がなくなってしまった。普段は軍務が忙しい。そうすると小説を書くために晩御飯を食べる時間がもったいないから、デザートと一緒に食べてしまえということで、御飯の上にまんじゅうを乗っけてお茶漬けにして食べた、などという本当だかうそだかわからない話があるんです。そうまでしても、体を壊さないんです。

だから時間の使い方や、どうやって頭を切り替えるのかということや、同時に2つか3つのことを考えることの訓練みたいなことは、どうもできそうだなと思うのです。

竹中平蔵: 大変示唆に富んだお話をいただいたと思います。私も、ささやかな経験ですがお話させていただきますと——もう何十年も前になりますが、京都大学の渡部昇一先生が書かれた『知的生活の方法』という本を読んで、大変参考になりました。その本の中のキーワードに、今おっしゃったこととすごく関連する言葉が出てきます。

渡部さんは「リリース効果」と言っています。仕事をやると疲れますよね、つまり緊張感があってガーッとやっているとどんどん疲れてくるから、それを解放したい、リリースして神経を緩めたくなる。ものすごく手っ取り早い方法はお酒を飲んでリリースすることだと。けれど、もっと別の、全く違うリリースのやり方がある、それは別のクリエーティブなことをすることだと。私はその言葉に触発されて、すごく仕事に疲れたときには、全く別のクリエーティブなこと ——本を読むとか、物事を考えることがあります。

今、福原さんがおっしゃった、実は意外といろいろなことができるんだ、もっと複数のことができるんだというのは、こういう「リリース効果」がそこに間違いなく働いているんだろうと思うのです。いろいろなことをやることによって、むしろ疲れが癒される。それはハイフニストのところで福原さんがおっしゃったように、1つのことを別の角度から見ると、お互い共通するところがあって、それが支え合うということが生じてくる。

これは経済学でいえば「範囲の経済性」、economies of scopeと言ったりしますし、例えば大学なんかでもダブルメジャー、専攻を2つ持つような仕組みはお互いを支え合う効果があるので、アメリカなどではすごく評価されています。そういったものとも重なる部分があります。

その意味では、「意外と持っている力は発揮できるよ」という福原さんのメッセージは、私は大変ありがたいと思うし、皆さんにも大いに参考にしていただきたく思います。