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ハーバード大教授が見た松坂メジャー革命:日米文化とビジネス戦略

BIZセミナーその他
更新日 : 2008年04月23日 (水)

第5章 最悪のピッチングだった対マリナーズ戦で、松坂は課題を自覚した

米倉誠一郎_アンドリュー・ゴードン

アンドリュー・ゴードン: 野球と文化交流について、「順応」の面から考えてみましょう。「順応」は、松坂のメジャーへの順応という面と、レッドソックスの日本野球への順応という面があります。この順応のプロセスは、昨シーズン中ずっと続けられてきましたし、これからもずっと続くものです。これは単にある選手とある球団との関係ではなく、日本野球と米国野球との関係になります。

昨シーズン、松坂は最初の試合こそ良かったものの、その後1カ月半ほどは苦しみました。特に5月の初めはひどかった。対マリナーズ戦で打者を3人連続で歩かせ、初回に5失点しました(その試合そのものは、レッドソックスがよく打ったので勝ちましたが)。開幕から1カ月半の間で、最悪なピッチングでした。

試合後の記者会見で松坂は、記者に「初回、何が起こったんですか?」と聞かれ「自分でもわかりません」と答えています。記者が、「こういう状況から抜け出すために、何をすべきだと思いますか?」と質問すると、「なんとかしなくちゃいけない。マウンドを降りてからずっと考えているけれど、自分の何かを変えなくてはいけないと思う」。「その何か、とは何ですか?」と問われると、「よくわかりません」と。松坂はいつも模範生のようなつまらないことしか答えないのですが、このときは正直に本音を語っていたと思います。

このとき、新聞記者や雑誌記者、ブロガー、テレビのコメンテーター、元選手や元コーチ、さらには24時間放送しているスポーツトークラジオに電話を掛けてきてしゃべるファンなど、みんながそろって口にした問題点は次のようなものでした。

・生活環境の変化の問題(日米の食べ物の違い。家族がまだ落ち着いていない)
・球審の問題(アメリカのストライクゾーンは、日本より狭い)
・対戦バッターの対策が上手だった(アメリカの打者は日本の打者よりも辛抱強く、ストライクゾーンから少しでも外れる球には手を出さず、見送ってボールにする)
・日米の物理的な違い(マウンドが硬い、空気が乾燥している、ボールが大きくて縫い目に違和感がある)
・ローテーションの間隔の問題(日本では先発投手は中6日=週1回の登板だが、アメリカでは平均して中4日=5日毎に登板する。中6日なら登板と登板の間に猛練習しても、疲労回復する時間がある。しかし、中4日で同じ練習をしたら体力が消耗してしまい、シーズン終わりまでもたない。従って登板と登板の間の練習方法を変えなければならない)