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ハーバード大教授が見た松坂メジャー革命:日米文化とビジネス戦略

BIZセミナーその他
更新日 : 2008年04月08日 (火)

第2章 利益は平等分配。MLBは二歩二条に規制された組織

アカデミーヒルズ BIZセミナーの様子

アンドリュー・ゴードン: レッドソックスは松坂に総額1億ドル(※編注:以下、計算を簡単にするためにこのレポートでは約100億円とする)という大きな投資をしました。松坂獲得にあたり、球団はチームを強くすることは考えていたが、実は100億円のビジネスプランは1つも考えていませんでした。

レッドソックスのマーケティング担当副社長のサム・ケネディへにインタビューしたところ、彼は次のように答えてくれました。球団社長のラリー・ルッキーノは長年、アジア、特に日本の野球に興味を持っていて、レッドソックスと日本・アジアとの関係を深めたい、MLBとアジアとの関係を深くしたいと考えていたそうです。だから松坂の話以前にも、「日本からいい選手が獲れたら、経済的・経営的に我々はどうなるか?」という漠然とした質問やディスカッションはあったといいます。しかし、松坂と100億円に関して丁寧な分析はしておらず、それは契約してから考えたということでした。

球団の利益を考えるとき、一般的に多くの人が先ず初めに思い浮かべるのは、日本での販売活動で得られる売上でしょう。しかしMLBという組織では、そこから球団が利益を得るのはほとんど不可能です。

経済で日米を比較すると、日本は規制されていて、アメリカは自由経済となりますが、プロスポーツのMLBに関しては話が別。MLBという組織は日本に負けず劣らず極めて規制された組織なのです。

各球団は独立企業というよりも、MLBという企業体の中の1つの部です。グラウンド上や選手獲得の面では競り合いますが、その他の面では競争していません。各球団が独占できる収入源は極めて限られていて、ほとんどの収入は平等分配されます。

松坂がレッドソックスに入団したことで増える収入のほとんどは、平等配分の対象になるのです。例えば、日本で販売されるレッドソックスのグッズの売上、NHKなどの放映権料、松坂や岡島を取り上げる特別番組の放映権料、球場看板以外の日本企業のスポンサー広告、来月(2008年3月)日本で開催されるレッドソックスの開幕公式戦の興行収入……これらはすべてMLBに入ります。そして30チームに平等に分配されるのです。単純計算すれば各チームに約3.3%ずつ分配されることになりますが、実際にはMLBが少し取るので、各球団が受け取るのは3.3%より少ない金額になります。

ある意味、レッドソックスはみんなのために仕事をしたといえます。日本から松坂を引っ張ってきて得られる収入を、レッドソックスが計算する意味はありません。それはMLBに任せればいいことなのです。