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『ケロッグ大学大学院 モーニング・セッション「異能の時代~ダイバーシティを活かした価値創造のマネジメント」』

BIZセミナーマーケティング・PR
更新日 : 2008年08月13日 (水)

第8章 "共感"には3つのプロセスモデルがある

星野朝子さん

星野朝子: 共感するということはどういうことか。リサーチ結果のデータをいくら出しても、それだけですべての意思決定はできないですから、意思決定者がターゲットとするカスタマーに共感していないといけないわけです。

「じゃあ、その共感する能力って何?」ということですが、共感能力は英語でエンパシー(Empathy)といいます。共感には3つのプロセスモデルがあります。

まず「波長合わせ(Attunement)」です。この能力は相手に対して興味を持っているか、アンテナが立っているかということです。感情的世界に関心がない人は、このアンテナが立っていません。それから、「心理的開放性」といって、相手に対して心を開いている状態でないと「波長合わせ」できません。つまり閉じている状態というのは相手に対して「戦いの姿勢」をとっている状態で、そこでは絶対エンパシーは生まれないんだそうです。

「心は開いていますよ」「感情の世界に興味がありますよ」を通過すると、次は「共鳴(Resonance)」。相手の言っていることが理解できるかという能力があります。

相手の言っていることが理解できたら、最後に「伝達(Communication)」。相手に対して、「あなたの思っていることってこうなのね」「私はあなたが理解できましたよ」とコミュニケートできなければいけません。

この3段階ができて、初めて「共感能力」は完成するということです。

そこで、日産の「共感能力」をテストすることになりました。社内には、「CFT(クロス・ファンクショナル・チーム)がやれといったら、やらないといけない」というルールがあり、それから「CFTが出せ」といったら、データを隠してはいけないというルールもあるのですよ。

ベンチマークは、いろいろな広告代理店やコンサル会社に協力をいただきまして、特に、男性なのに女性をターゲットとして成功をたたき出しているブランドマネジャーを60人紹介してもらい、その人たちにテストを行ってもらいました。

結果がこれです。偏差値で50が平均ですが、さすがにベンチマーク先のマーケターは偏差値81.2とすごいです。日産は44.7。思っていたほどひどくなかったなというのが、このときの印象でした。

これを3ステップごとに見ると、まず日産のマーケターたちは「伝達」は高いんですが、「波長合わせ」と「共鳴」ができてない。これをゴーン氏が見たとき、「波長合わせも共鳴もできていないのに、しゃべるだけしゃべって意味ないじゃないか」と、おっしゃっておりました(笑)。ベンチマーク先はさすがに3ステップともに高得点です。

この結果から「日産の共感能力は低い」ということになって、ファンクションに対してチャレンジにいくわけです。

さて、このテストはプロによるアセスメント(評価)ですが、これ以外に自己アセスメント、「自分は自分の能力のことをどう思っているか」というテストもやったのです。結果、日産のマーケターは自分では「共鳴」も「伝達」もすごくできていると思っている。「波長合わせ」が自分でも低いというのはちょっと問題ですけれど、まあこんな結果でした。

とても面白かったのは、ベンチマークしたスーパーブランドマネジャーたちの数値の低さ。日産のマーケターより3ステップともに遥かに低い自己評価でした。

スーパーブランドマネジャーの中の何人かに、私もお会いしました。そのとき、皆さんが言われるのは、「私はお客さまのことが分かりません」ということ。すでに成功をたたき出しているにもかかわらず、見事に「私はお客さまのことは分かっていません。だから調査をするし、データを見るし、お客さまに会いたいんだ」と口を揃えるのです。たぶん、そういう謙虚な姿勢がこの結果に出ているのかなと思います。