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日本元気塾セミナー
隈研吾氏と考える「世界における日本の戦い方」

更新日 : 2018年05月15日 (火)

第2章 仕事はステップ・バイ・ステップ。実験を重ね、信頼関係を積み重ねる。



小さな仕事で育まれた信頼が、大きな挑戦につながった

隈研吾: 高知県と愛媛県の境に、檮原(ゆすはら)町という小さな街があります。地元の建築家から「ここにある『ゆすはら座』という木の芝居小屋が壊されてしまいそうだから、来てくれ」と言われ、1989年に反対するために訪れました。ひょんなことから町長さんと吞んで盛り上がり、芝居小屋は保存されることになったのですが、公衆便所の設計を頼まれました。以来20年以上にわたり、この街と深い信頼関係で結ばれています。

梼原町で最初に設計した公衆便所は大人しいものでしたが、信頼関係ができ、地元の職人さんたちとも知り合いになると大胆な挑戦もできるようになりました。地元の素材を使い、宿泊もできる刎橋(はねばし)や茅葺きの町営ホテル「まちの駅・ゆすはら」などを、職人さんと一緒になってつくってきました。今度5軒目の建物が完成します。

一発で大傑作はできません。ステップ・バイ・ステップで実験を重ね、信頼を積み重ねていくことが大切なのだと私は思います。

「スターバックス太宰府天満宮表参道店」も、先にお話した「プロソミュージアム・リサーチセンター」があったからこそ、頼まれた仕事です。普通、スターバックスの店は3カ月くらいでできるそうですが、1年半くらいかかったので、クライアントは当初いい顔をしませんでした。しかし、インスタ映えするらしく、大人気店に…。スターバックスの米国本社に講演に呼ばれ、シュルツ会長と意気投合。シアトルには珈琲のテーマパークのような「スターバックス リザーブ ロースタリー&テイスティングルーム」があるのですが、その日本版の設計を頼まれました。

地元の素材や強みにこだわり、職人さんと一緒につくる

隈研吾: 日本の公共建築としては、長岡市に土間のある庁舎を提案して実現した「シティホールプラザ アオーレ長岡」があります。土間のほかにも、15km圏内の越後杉や地元の和紙をふんだんに使い、暖かい雰囲気になりました。子どもたちにも自分の庭や家のように親しまれています。市長さんがとてもノリのいい方で、議場を使った音楽会など、ユニークなイベントをたくさん開いており、4年間で約500万人が訪れたと聞いています。

中国・杭州では「中国美術学院民芸博物館」を設計しました。地元の産物の瓦を外壁など随所に使っています。手づくりの瓦は色ムラがあって、工業生産品とは違う素朴な魅力があるうえにとても安い。世の中には遅れているからこそ、面白いものがたくさんあります。私は、常にその土地で一番のウリになるものは何かを考えます。また、中国の社会は人間的なつながりがとても重要です。この博物館も、中国美術学院の学長の後押しで実現しました。

欧州では市民説明会がカギ。「アミーゴ状態」になれればうまく進む



隈研吾: フランスでは「ブザンソン芸術文化センター」を設計しました。小澤征爾さんがグランプリを受賞した国際指揮者コンクールが開かれるところです。欧州の公共建築のプロジェクトでは、市民への説明会がとても重要です。最初はネガティブな質問が多く、「あなたは木の建物をつくろうとしているが、メンテナンスで市の財政が圧迫されるのではないか」といった厳しい質問もありました。しかし、当時のサルコジ大統領が「公共建築のプロジェクトを100に絞る」と表明したことから、このプロジェクトを残そうと皆と一緒に対策会議をしているうちに、市長や市民の皆さんと「アミーゴ状態」に…。海外のプロジェクトでは、地元の人たちとどう仲間になるか、アミーゴ状態になるかが大事です。

海外では、人間関係の構築が仕事の半分以上を占める

隈研吾: アメリカでは「ポートランド日本庭園」の拡張プロジェクトを体験しました。欧州では市民への説明が重要ですが、アメリカではファンドレージングが成否を決めるカギになります。地元の有力者の支持を得るために、4年間ポートランドに通い、ポートワインを吞みながら語り合い、親しくなりました。その結果としてできあがったのがこのプロジェクトです。今もポートランドの人たちとの交流が続いており、彼らが来日する度に一緒に吞んでいます。

直近の海外プロジェクトとしては、2018年9月にイギリスのヴィクトリア&アルバート・ミュージアムのスコットランド分館がオープンします。これはコンペで選ばれてから7〜8年経っています。日本では考えられないことですが、海外では珍しいことではありません。この期間にいかに人間関係を構築するかがポイントです。スコットランド政府だけでなく、民間からの寄付や地元の支援があってこそ、実現するものだからです。海外のプロジェクトでは人間関係を構築するプロセスが仕事の半分以上を占める、といっても過言ではありません。


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隈研吾氏と考える「世界における日本の戦い方」
隈研吾氏と考える「世界における日本の戦い方」

隈研吾(建築家)×米倉誠一郎(日本元気塾塾長)

世界を舞台に活躍する建築家・隈研吾氏は、混沌とした世界情勢の中で何を求められ、デザインを通して何を発信してきたのか?「これからの未来を創る若い日本人が何を強みに世界に出ていくべきか?」について考えます。



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