記事・レポート
突き抜けるアート ~社会と人をつなぐもの~
変容するアートが人を変え、世界を変える:猪子寿之×津田大介
更新日 : 2015年12月16日
(水)
第8章 「近代以前の知」に未来へのヒントがある
境界線があいまいだった頃の自然
津田大介: チームラボはその名の通り、チームで作品をつくっています。とはいえ、作品のコンセプトやビジョンを決めるのは、猪子さんの直感が主導になるのか、それともディスカッションの中で決まっていくのか? チームラボの発想の源を知りたいのですが。
猪子寿之: それはみんなで……。発想の源という意味で言えば、1つは、チームラボは人類が長年培ってきた「文化的知」のようなものにすごく興味があります。それは近代以前にもたくさんあったはずですが、産業革命が起こった後の近代社会と相性が悪かったがゆえに、捨て去られてしまったものがある。
そして、現在は情報社会という新しい社会に変わったことで、近代社会で重要視されてきたものが、重要ではなくなりつつある。そうした時にこそ、一度は失われてしまった近代以前の文化的知のようなものが、再び重要になってくるように思うのです。
津田大介: 近代以前の知に回帰するというか、再びスポットライトが当たる。
猪子寿之: 単純に近代社会とは相性が悪かっただけで、知としては素晴らしいものがたくさんある。その中に、情報が主体となった新しい社会において役立つヒントが必ずあると思っています。
津田大介: 例えば、それを作品として表現したものは?
猪子寿之: 1つは国東半島芸術祭の作品です。作品づくりの下見に訪れた時、山に咲く桜や菜の花、青々と茂る木々を見ていたら、どこまでが人が手を加えたものなのか、どこまでが自然そのものなのか、よく分からなかった。とはいえ、あいまいだからこそ、安心感があり、とても心地よかった。
近代とそれ以前では、人と自然の関係はあきらかに違います。近代において、自然は把握する対象、あるいは支配やコントロールする対象というように、別々に存在していました。もしくは、やり過ぎて破壊してしまった時は、人間を完全に排除して自然を守るといった極端な感じになる。
国東半島は近代以前、まだ海路が中心だった時代に栄えた場所です。しかし、産業革命以後は陸路が中心の社会になり、陸の孤島のようになってしまった。だからこそというか、棚田や里山といった近代以前における人と自然との関係が垣間見える場所がたくさん残されていた。それらの棚田や里山をつくった人達の中には、自然は人間がコントロールできるようでできないもの、人間も自然の一部といった前提があり、両者の関係はとてもあいまいだったように感じました。
津田大介: そうした土地の歴史や文化、人と自然の関係をデジタルの世界に落とし込み、表現したわけですね。
猪子寿之: 実際に作品を体感してもらうことで、境界線があいまいだった頃の人と自然の関係や、これからの未来について少しでも考えてもらえたら嬉しい。そう考えてつくりました。
該当講座
六本木アートカレッジ 突き抜けるアート~社会と人をつなぐもの~
世の中に新しい価値を送り出すウルトラテクノロジスト集団チームラボ代表、猪子寿之氏と、政治・経済・カルチャーなど独自の視点で発信している津田大介氏がアートの可能性を語ります。
突き抜けるアート ~社会と人をつなぐもの~ インデックス
-
第1章 スマホで飾り付ける“動く光の彫刻”
2015年12月02日 (水)
-
第2章 1つの街をそのままアート空間へ
2015年12月02日 (水)
-
第3章 物質に凝縮された美を、空間に解放する
2015年12月02日 (水)
-
第4章 絶え間なく循環し、創造される自然
2015年12月09日 (水)
-
第5章 デジタルの登場により、アートは自由になった
2015年12月09日 (水)
-
第6章 「変容」から生まれるあいまいな関係
2015年12月09日 (水)
-
第7章 アートの力で人々の関係性を変えていく
2015年12月09日 (水)
-
第8章 「近代以前の知」に未来へのヒントがある
2015年12月16日 (水)
-
第9章 「近代以前の日本の空間認識」を模索する
2015年12月16日 (水)
-
第10章 チームラボの作品を通じて人類を前に進めたい
2015年12月16日 (水)
-
第11章 共創の楽しさ、面白さを感じてほしい
2015年12月16日 (水)
注目の記事
-
03月26日 (火) 更新
動的書房 ~生物学者・福岡伸一の書棚
目利きの読み手でもある生物学者の福岡伸一による、六本木ヒルズライブラリーのための選書書棚「動的書房」。2024年3月に新たに21冊が並びまし....
-
03月26日 (火) 更新
本には、人生を変え、時代を創るパワーがある!
2023年4月から2024年2月まで全6回で開催したシリーズ「編集者の視点〜時代を共に創る〜」。モデレーターの干場弓子さんと何度も企画会....
シリーズ編集者の視点〜時代を共に創る〜 <編集後記>
-
03月26日 (火) 更新
【重要】「アカデミーヒルズ」閉館のお知らせ
「アカデミーヒルズ」は、2024年6月30日をもって閉館させていただくこととなりました。これまでのご利用ありがとうございました。閉館までの間....
現在募集中のイベント
-
開催日 : 05月08日 (水) 19:00~20:30
多様な個性が育むナラティブパワー
「⾃分の物語(ナラティブ)」を語り、社会との関係性や「私たち」の目指す世界につなげていくことで、何か問題があっても、人々の共感を得て社会を変....
-
開催日 : 05月21日 (火) 12:00~12:45 / 05月21日 (火) 19:00~19:45
ゆる~くつながろう!メンバー雑談
テーマなし!年齢制限なし!ライブラリーメンバーなら誰でも参加できる雑談イベントです。肩の力を抜いて楽しく、そしてリラックスした45分を過ごし....
-
開催日 : 04月23日 (火) 19:00~20:30
「欲望」以外が資本主義のエンジンとなり得るのか?
ミクロとマクロの視点、日本と世界の視点を行き来しながら、持続可能な社会のために私たちがいまできることを考えます。スピーカーは、ファッション産....