オピニオン・記事

名画は語る

優れた絵画は、優れた物語を生む~ブックトークより

更新日 : 2018年09月14日 (金)

第4章 画家たちの人間像に迫るフィクション


原田マハの絵画小説

澁川雅俊:  原田マハは、キュレーターとして森美術館の設立に関わったほか、ニューヨーク近代美術館(MoMA)にも勤務。その後、小説家としても数々の文学賞を受賞しています。ゴヤの「着衣のマハ」「裸のマハ」に由来する筆名をもつこの作家は、これまでに50点ほどの単行本を出版していますが、名画をモチーフにした小説も多数あります。

たとえば、1937年に制作されたピカソの《ゲルニカ》。ヘミングウェイの『誰がために鐘が鳴る』で知られるスペイン内戦で、フランコを支援した独空軍が同国北部の小都市ゲルニカで行った無差別空爆の惨状が描かれています。『暗幕のゲルニカ』〔新潮社〕は画家がこの絵に込めた‘想い’を軸に、1930年代のパリと9.11後のニューヨークを交差させ、画家を取り巻く女性たちのエピソードも織り混ぜながら、一流のアートサスペンスに仕上げています。

2つ目は、ルソーの《夢》を題材とした『楽園のカンヴァス』〔新潮社〕。MoMAの男性キュレーターと日本人女性美術史家がこの名画の真贋鑑定を競う、ミステリータッチの物語です。50歳を過ぎて専業画家となったルソーの作品は最晩年まで酷評されていましたが、没後は一転、キュビズムやシュルレアリスムの先駆者として高く評価されるようになりました。本書では生前から彼を支持していたピカソも絡め、不思議な魅力をもつ名画の秘密が解き明かされていきます。

3つ目は、中世西欧で制作された《貴婦人と一角獣》と呼ばれる6枚連作のタピスリー(タペストリー)です。『ユニコーン ジョルジュ・サンドの遺言』〔NHK出版〕は、このタピスリーに描かれた美しい貴婦人と、それに魅せられた19世紀の女流作家との幻想的な交流を描いたフィクションです。

最後は、白黒を基調とした耽美なペン画で名を馳せたオーブリー・ビアズリーの《サロメ》です。劇作家オスカー・ワイルドの同名戯曲の挿絵に使われたものですが、そのモチーフは新約聖書に登場する妖女(ヘロディアの娘)。『サロメ』〔文藝春秋〕は、19世紀末の退廃的なイギリスを舞台に、25歳で夭折した天才画家とワイルドとの愛憎劇が、画家を溺愛した実姉の視点で語られていきます。

他にも、この作家の絵画小説には、MoMA所蔵の現代アートを題材にした短編集『モダン』〔文藝春秋〕、京都を舞台に無名の女性画家と女性画商をめぐる‘業’を描いた『異邦人(いりびと)』〔PHP研究所〕、モンパルナスのリトグラフ工房を舞台とした風変わりな恋愛小説『ロマンシェ』〔小学館〕、実話をもとに危機に瀕した美術館を描いた短編『デトロイト美術館の奇跡』〔新潮社〕、日本の民藝運動に参画した英国人陶芸家の伝記風小説『リーチ先生』〔集英社〕、ジャクソン・ポロックの幻の傑作《ナンバー・ゼロ》をめぐるサスペンス『アノニム』〔KADOKAWA〕などがあります。

該当講座


【アペリティフ・ブックトーク 第42回】
名画は語る~優れた絵画は優れた物語を生む (19:15~20:45)
【アペリティフ・ブックトーク 第42回】 名画は語る~優れた絵画は優れた物語を生む (19:15~20:45)

今回は、歴史に名を刻む“名画”にまつわる書籍をテーマにしたブックトーク。
ライブラリーフェロー・澁川雅俊が、最近多く出版されている“名画もの”にまつわるさまざまな書籍を取り上げ、「名画と書籍」を自在に行き来して語ります。



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