記事・レポート

業魂を繋ぐ~日本の老舗、名店

「商は信なり」を体現する老舗

更新日 : 2018年06月13日 (水)

第3章 老舗の甘み・辛みは相半ば

和菓子・洋菓子の創業秘話あれこれ

澁川雅俊: 1620年、広島・福山で創業した虎屋本舗は、いまも“業魂”を色濃く継承し、CSRなどにも積極的な老舗ですが、その理念や取り組みが『創業100年企業の経営理念〈2〉』〔入野和生著、金澤健吾編/吉備人出版〕で取り上げられています。「NEXT100 どう生きる」との副題が付いた本書では、岡山、広島、香川、兵庫などの老舗27社の経営理念や家訓、企業存続の秘訣を読み解こうとしています。

「カステラ」を扱う長崎の福砂屋は、1624年の創業です。『お菓子(スイーツ)を彩る偉人列伝』〔吉田菊次郎/ビジネス教育出版社〕は、江戸時代から現代に至るまで、日本の洋菓子文化に足跡を残した人物の奮闘を、著名な洋菓子職人でもある著者が軽妙な語り口で綴っています。カステラ、チョコレート、アイスクリーム、パンなど、様々な洋風甘味の創業秘話が紹介されており、福砂屋とともに、1681年創業の長崎のカステラ屋・松翁軒も取り上げられています。


老舗酒蔵はいまも盛業

※リストは拡大出来ます

澁川雅俊: 甘みの老舗がある一方で、辛みの老舗を見ると、46の酒蔵がいまも盛んです。近年はブランディングの一環として、創業以来の歴史や“業魂”をホームページなどでPRする酒蔵も増えていますが、ここでは老舗酒蔵の事業継承のインセンティブが窺い知れる本を取り上げます。

子ども向けに編纂された『企業内「職人」図鑑〈6〉:伝統食品』〔こどもくらぶ編/同友館〕では、醤油、味噌、納豆という日本伝統の発酵食品とともに、酒については創業510年以上になる剣菱酒造の酒造りが紹介されています。本シリーズは、手仕事を大切にする職人魂がテーマとなっており、職人達が語る言葉に老舗ならではの“業魂”が見え隠れしています。

『ちいさな酒蔵 33の物語~美しのしずくを醸す 時・人・地』〔中野恵利/人文書院〕には、秀吉と勝家が対決した賤ヶ岳の戦いなど戦国時代の手柄話に因んだ「七本槍」のブランド酒を造る、創業463年の老舗・冨田酒造(滋賀県長浜市)を取り上げています。大阪・天神橋筋で日本酒バーを営む女性ライターが著した本書では、この他にも全国の知られざる酒蔵を巡る人や土地の物語が披露されています。

 
“長生き”するビジネスモデルとは?



澁川雅俊: 設立後、数十年のうちに姿を消す会社が多い中、数百年も続く会社が我が国には少なからずあります。そんな老舗の創業者や中興の祖は、社員に何を伝え、何を守ってきたのでしょうか?

『商売繁盛 老舗のしきたり』〔泉秀樹/PHP研究所〕では、「人より内輪に利得をとりてよく得意とるべし」を家訓とし、江戸の中心に本店を構え続ける創業421年の酒屋、豊島屋本店の家業継承の極意など、商いに大切な21の教えを明らかにしています。

いまから400年以上前のある大雪の晩、信州伊那の庄屋が雪中で行き倒れた旅の老人を助け、手厚く介抱した。その御恩に報いようと、老人は去り際に秘伝の薬酒の製法を伝授した……。『老舗の教科書~養命酒はなぜ四〇〇年売れ続けるのか』〔柳下要司郎/大和書房〕では、そんな逸話を持つ老舗企業が大切にしてきた“長生き”するビジネスモデルが語られています。

グロービス経営大学院が編纂した『創業三〇〇年の長寿企業はなぜ栄え続けるのか』〔田久保善彦監修/東洋経済新報社〕は、伏見の老舗・月桂冠酒造をはじめ、日本型サスティナブル企業69社が、時代・世代・事業の変化をどのように乗り越え、創意工夫を重ねてきたのかなど、「枯れない」理由を考察しています。

副題に「日本酒業界を牽引する5人の若き造り手たち」とある『蔵を継ぐ』〔山内聖子/双葉社〕では、先代までの負の遺産を抱えながら、果敢に家業を継いだ若者達の生き様が描かれています。1650年創業の長野県木祖村の酒蔵、湯川酒造店を継いだ湯川尚子氏の項では、杜氏との衝突や、父の死を乗り越え、ひとりの造り手として認められんがために苦闘した女性社長の姿が語られています。


該当講座


【アペリティフ・ブックトーク 第44回】
業魂を繋ぐ~日本の老舗、名店 (19:15~20:45)
【アペリティフ・ブックトーク 第44回】 業魂を繋ぐ~日本の老舗、名店 (19:15~20:45)

ライブラリーフェロー・澁川雅俊が、さまざまな本を取り上げ、世界を読み解く「アペリティフ・ブックトーク」。
44回目となる今回は、様々な業種における“老舗”をテーマに、古くより続く事業を今に継ぐ仕組み・その展開を、関連書籍と共に紐解きます。


業魂を繋ぐ~日本の老舗、名店 インデックス