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六本木アートカレッジ・セミナー
シリーズ「これからのライフスタイルを考える」第8回
なぜ、人は宇宙をめざすのか?

宇宙の人間学~「宇宙の視座」を獲得した人類~

更新日 : 2017年05月15日 (月)

第2章 「新しい宇宙観」の幕開けの時代

清水順一郎(「宇宙の人間学」研究会事務局/代表)


なぜ、有人宇宙開発を行うのか?

清水順一郎: 私は2015年3月にJAXAを離れましたが、その10年ほど前、いろいろな方から「なぜ、たくさんのお金を使って、直接的には役に立たない有人宇宙開発を行うのか?」と質問されました。

経済が右肩上がりだった頃は、国が明確な目的を打ち出し、皆さんにも納得してもらえました。私たち研究者や技術者も、目的の実現方法だけを考え、開発していれば済みました。ところが、経済が長く停滞し、国としても目的が曖昧になり始めると、私たち自身で目的を創り出さなければならなくなりました。

そのようなタイミングで「何のために?」と質問され、はたと考え込んでしまったのです。この質問の答えを見つけ出す意味でも、「宇宙の人間学」研究会は大きな役割を担っています。

さらに、21世紀に入って以降、「宇宙の人間学」研究会の開始時には想定しなかった新たな研究成果が数多く出てきています。例えば、我々が理解できる宇宙の物質はわずか5%だけ。残りの95%はダークマター(暗黒物質)やダークエネルギー(暗黒エネルギー)という、よくわからないものであることがわかりました。最近では「重力波」が大きな話題になりました。今後、これらが解明されていけば、宇宙の始まりやその成り立ちの理解に近づくことができ、現在の宇宙観も一変することでしょう。


1995年には、太陽のような恒星の周りを回る惑星(太陽系外惑星)が見つかりました。地球から約50光年離れたペガスス座51番星bです。それから現在に至るまで、銀河系内だけでも3,500個以上の系外惑星が発見され、そのうち2割は地球のような水や大気を有する惑星だと推測されています。

科学技術が飛躍的に発展したことで、従来の定説や常識を覆すような発見が次々と起こっています。私たちが生きる21世紀は、「新しい宇宙観」の幕開けの時代であると言えるかもしれません。

20世紀半ば、人類はアポロ8号の写真を通じて、初めて宇宙空間に浮かぶ地球を見ました。それは私たちにとって、青い生命の星、宇宙船地球号といった地球上の誰もが共有できる新たな概念・認識をもたらしてくれました。

その地球は現在、紛争、温暖化、貧困など、ネガティブな問題をたくさん抱えています。こうした問題を解決するにあたり、宇宙に関する研究や開発、地球上の誰もが共有できる「宇宙の視座」が役立つかもしれない。それが、冒頭でご紹介した質問に対する1つの答えになると思いながら、私たちは研究会で議論を続けてきました。


該当講座


六本木アートカレッジ これからのライフスタイルを考える 「なぜ、人は宇宙をめざすのか?」
六本木アートカレッジ これからのライフスタイルを考える 「なぜ、人は宇宙をめざすのか?」

清水順一郎(「宇宙の人間学」研究会事務局/代表)×的川泰宣(JAXA名誉教授)×高柳雄一(多摩六都科学館館長)×樋口清司(前JAXA副理事長)
人はどうして宇宙に憧れるのか? そして、テクノロジーの進化により「宇宙ステーション」という視座を得ました。また、太陽系以外の存在が明らかになるにつれ、地球外生命の存在や、他星での居住可能性などが議論されるようになってきています。
研究や技術が進化し、ユニバース(単一宇宙)からマルチバース(複合宇宙)という新たな視座が生まれたことがその理由です。
地球ではない場所で人や動植物のような生命体が存在するとしたら、果たしてそもそも「生命」とはどういう定義になるのでしょうか?地球という有限な惑星に生きる私たちは、これからどのように多様化し、社会生活を営んでいくのでしょうか?人間らしさはどのように変容していくのでしょうか?


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