記事・レポート

サイエンスシリーズ~宇宙の最前線

宇宙はどのように始まり、これからどうなるのか?

更新日 : 2016年07月27日 (水)

第2章 ビッグバンの前の宇宙


 
宇宙の晴れ上がり

小松英一郎: 「宇宙はビッグバンで始まった」と言われますが、正確に言えば、ビッグバンとは熱い宇宙のことです。現在では、宇宙は誕生直後、10のマイナス36乗秒という刹那に急膨張(インフレーション)し、急速に冷え、その後、急膨張を起こしたエネルギーが熱に変わってビッグバンが起こったと考えられています。つまり、ビッグバンは宇宙の始まりではないという考え方が主流です。10のマイナス36乗秒とは、1秒の1兆分の1の1兆分の1の、さらに1兆分の1です。ビッグバン後、宇宙は超高温の状態、すなわち灼熱の「火の玉」となりました。

ビッグバン後、色々な素粒子も誕生しました。陽子、電子、ヘリウム原子核、光子、ニュートリノ、暗黒物質(ダークマター)などですが、それらは超高温・超高密度状態のため結合することができず(完全電離状態)、バラバラに飛び交っていました。そのため、この当時の宇宙は濃い霧がかかったようにモヤモヤとしています。皆さんがご存じの霧は、光が水蒸気の粒に当たって乱反射したものですが、それと同様に、光子は自由に飛び交う電子に当たって散乱し、真っ直ぐに進めなかったのです。

しかし、宇宙が膨張し、空間が引き伸ばされていくにしたがい、次第に宇宙の温度が下がっていきました。ビッグバンから38万年後、宇宙が絶対温度で3,000度まで冷えた時、突然、霧が晴れたように宇宙は透明になります。温度が下がったことで、電子が陽子やヘリウム原子核と結合できるようになり、光を散乱する自由な電子が減って光が真っ直ぐ進めるようになったからです。これを「宇宙の晴れ上がり」と言います。

宇宙マイクロ波背景放射(CMB)は、この晴れ上がりによって姿を現した「ビッグバンの残光」であり、現在我々が見ることのできる最古の宇宙の姿です。先ほど「ほぼ実話」と申し上げましたが、実話と言えるのは「宇宙の晴れ上がり」まで。それ以前の宇宙の様子をとらえることは、まだできないからです。したがって、宇宙の晴れ上がり以前のお話は、CMBの観測結果に基づく推論となります。

 
銀河と銀河が衝突する?

小松英一郎: 宇宙の温度が下がり、電子が陽子やヘリウム原子核と結合したことで、星の主原料となる水素原子やヘリウム原子が生まれました。物質が集中する場所には、重力の作用によって物質が集まります。宇宙がさらに膨張して冷えていくうちに、最初の星が誕生し、さらに途方もない時間をかけてそれらが集まり、銀河ができあがったわけです。そして、いまこの瞬間も宇宙は膨張し続けています。

話は少し逸れますが、我々がいる天の川銀河とアンドロメダ銀河はいつか衝突し、1つになると考えられています。宇宙の長い歴史の中で銀河は頻繁に衝突しており、実際にアンドロメダ銀河は時速約40万kmものスピードで天の川銀河に近づいています。しかし、すぐには激突しませんのでご安心ください。現在の研究によれば、2つの銀河が衝突するのは約40億年後と言われています。

天の川銀河とアンドロメダ銀河が合体したら、どう呼ばれるのか? 天文学者の間では、すでに呼び名が決まっています。それは「ミルコメダ」。ミルキーウェイとアンドロメダだから。天文学者のネーミングセンスは本当にどうかしています(笑)。

話を戻しますと、ビッグバンの残光であるCMBは、驚くことに137億年経ったいまも僕達の周りはもちろん、宇宙全体を一様に埋め尽くしています。その光は波長の長いマイクロ波でしかとらえることができず、可視光で見ることはできません。そこで、電波望遠鏡を使ってその光の粒の数を調べたところ、なんとその数は1立方cmあたり410個。つまり、角砂糖1個の中にビッグバンの残光の粒が410個も詰まっていたのです。

実は、皆さんのご家庭にある「テレビ」も立派な受信装置となります。ケーブルテレビではなく、テレビ局からの電波を受信する昔ながらのアナログ放送の場合ですが。放送終了後に流れている砂嵐の画面、そのザーッという雑音の1%はCMBです。つまり、皆さんもご自宅でビッグバンの残光を感じることができるのです。


該当講座


六本木アートカレッジ 宇宙論の最前線〜私たちは宇宙をどこまで理解したのか〜
六本木アートカレッジ 宇宙論の最前線〜私たちは宇宙をどこまで理解したのか〜

小松英一郎(マックスプランク宇宙物理学研究所所長/カブリ数物連携宇宙研究機構上級科学研究員)
宇宙の“始まり”や“終わり”とはどのようなものなのでしょうか? そして宇宙を構成している成分は何か? 宇宙の進化とは? これらを研究するのが「宇宙論」です。過去20年間に宇宙論は爆発的な進展を遂げてきました。特に観察装置の進化により、これまで見えなかった宇宙が見えるようになってきたのです。本講演では、最新の宇宙で起こっている信じ難い現象を紹介するとともに、研究者がいかにして解き明かしてきたかをお話しいただきます。