記事・レポート

サイエンスシリーズ~宇宙の最前線

宇宙はどのように始まり、これからどうなるのか?

更新日 : 2016年07月27日 (水)

第1章 遠くを見るほど「昔の宇宙」が見える

2016年2月11日、アインシュタイン博士が100年前にその存在を予言した「重力波」がついに発見された、というニュースが世界中を駆け巡りました。このように21世紀に入って以降、科学技術の急速な発展によって、宇宙にまつわる様々な謎が解き明かされつつあります。宇宙の起源や組成を探究する「宇宙論」の最先端拠点、ドイツのマックス・プランク宇宙物理学研究所の小松英一郎所長に、宇宙誕生の秘密や、宇宙の未来について解説していただきました。

<講師>
小松英一郎(マックス・プランク宇宙物理学研究所所長/カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)客員上級科学研究員)

小松英一郎(マックス・プランク宇宙物理学研究所所長/カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)客員上級科学研究員)

 
天文学者は本当に宇宙を見ている

小松英一郎: 実は僕、宇宙と“マブダチ”です。僕以上に宇宙のことが大好きな人間は、世界中を見回してもなかなかいないと思います。残念ながら、まったくの片思いかもしれませんが(笑)。

昨今は科学技術の進歩により、今まで分からなかった宇宙の謎が少しずつ解き明かされており、皆さんも宇宙に関する話題を耳にすることが多いと思います。とはいえ、理屈は理解できたとしても、それを「実感」することは難しいため、どこか腑に落ちないなと感じることもあるはず。今回のトークを通じてぜひ、実感として宇宙に触れていただき、宇宙と友だちになってほしいと思います。

「星はこのようにして生まれる」「星はこのように消滅する」。天文学者は、まるで実際に見て来たかのように、宇宙について語ります。なぜなら、本当に見ているからです。その場所に行くことはできませんが、望遠鏡という“科学の眼”を使えば、現在は宇宙のはるか向こう、たとえば数十億光年離れた場所まで見渡すことができます。見たことをそのまま語っているため、今回のお話はほぼすべて実話です。

「ほぼ」と付けたのは、やはり見えないものもあるから。それらについては、見えている部分から推測しなければなりません。しかし、最初から宇宙という壮大かつ難解なドラマの結末が分かってしまうのも面白くありません。見えない部分から推測し、仮説を立て、新しい装置をつくって新事実を見つけ出し、仮説が本当だったと確認する。このように、壮大なドラマに秘められた謎を1つずつ解き明かしていくことが、宇宙研究の最大の醍醐味です。
 
誕生直後の宇宙は「火の玉」だった

小松英一郎: 宇宙を見る時の基本は「遠くを見れば、昔が見える」です。光の速さは毎秒約30万kmですから、例えば、1億5,000万km離れた太陽の光が地球に届くまで、約8分かかります。したがって、僕達が見ているのは約8分前に光った“昔”の太陽です。

太陽の次に地球に近い恒星プロキシマ・ケンタウリまでは、約4光年離れています。1光年とは、光の速さで1年かかる距離であり、約9兆4,600億kmです。つまり、僕達が今見ているプロキシマ・ケンタウリの光は4年前のものです。

このように、地球から遠く離れていくほど、時間をさかのぼることになり、昔の宇宙の姿が見えてきます。これまで、多くの天文学者が地球から離れた場所を見るために、様々な観測装置をつくり出してきました。するとある日、宇宙の始まりの頃が見えてしまったわけです。

まずはこちらの映像をご覧ください。僕達は地球を飛び立ち、太陽系の外側へと向かいながら、宇宙の歴史をさかのぼっていきます。月や火星、木星、土星を通り過ぎ、さらに進むうちに、途中で太陽は見えなくなります。そのまま進み、大きな星雲をいくつも通り抜けていくと、我々のいる銀河系(天の川銀河)の外側に飛び出します。銀河系の直径は約10万光年です。さらに進んでいけば、地球から約230万光年離れた場所にあるアンドロメダ銀河が見えてきます。

もっともっと遠くの、つまり昔の宇宙にさかのぼり、宇宙が約10億歳の頃に誕生した最初の銀河を通り過ぎ、約4億歳の頃に誕生した最初の星を通り過ぎると、しばらくは何もない暗黒時代が続きます。そこを通り抜けると、見えてきたのは熱い、熱い、誕生間もない頃の宇宙です。実は宇宙が始まった頃は、超高温・超高密度の状態、まさに灼熱の「火の玉宇宙」だったのです。

そして、灼熱の「火の玉宇宙」は光に満ちあふれていました。宇宙が始まった頃に放たれたこの光を「宇宙マイクロ波背景放射」(Cosmic Microwave Background/CMB)と言います。今回のお話の主役です。


該当講座


六本木アートカレッジ 宇宙論の最前線〜私たちは宇宙をどこまで理解したのか〜
六本木アートカレッジ 宇宙論の最前線〜私たちは宇宙をどこまで理解したのか〜

小松英一郎(マックスプランク宇宙物理学研究所所長/カブリ数物連携宇宙研究機構上級科学研究員)
宇宙の“始まり”や“終わり”とはどのようなものなのでしょうか? そして宇宙を構成している成分は何か? 宇宙の進化とは? これらを研究するのが「宇宙論」です。過去20年間に宇宙論は爆発的な進展を遂げてきました。特に観察装置の進化により、これまで見えなかった宇宙が見えるようになってきたのです。本講演では、最新の宇宙で起こっている信じ難い現象を紹介するとともに、研究者がいかにして解き明かしてきたかをお話しいただきます。