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小さな一歩が世界を変える!

「医療」「教育」で世界を変えるニッポン人

更新日 : 2016年07月06日 (水)

第8章 誰もが参加しやすい仕組みをつくる

米倉誠一郎(日本元気塾塾長/一橋大学イノベーション研究センター教授)

 
ジャパンハートのユニークな参加方法

米倉誠一郎: いやはや、おふたりともすごい話をしてくれましたね。しかし、思いを実現するためには資金も重要なファクターになります。吉岡先生の場合、最初の活動資金はどうされたのでしょう?

吉岡秀人: 自分で貯めたわずかなお金以外は、戦争で亡くなった方々の遺族が支援してくれました。ミャンマーに暮らす人々と亡くなった家族がつながっているという感覚があったようで、困っている現地の人達を助けたいという思いから支援してくれました。

米倉誠一郎: 戦争が終わった頃、ミャンマーの人達は日本の敗残兵に対して非常に温かく手を差し伸べてくれたそうですね。

吉岡秀人: 病院にやって来る人達を見て、ふと気づきました。彼らのおじいちゃん、おばあちゃんが日本人を助けてくれたのかと。そうであれば、僕の役割はその恩返しをすることだと思いました。

米倉誠一郎: それにしても、ジャパンハートの「仕組み」がすごい。参加する医師や看護師さんは、渡航費などは自腹のうえで、さらに数万円の参加費までいただく。

吉岡秀人: 東日本大震災を境に時代のトレンド、人々の価値観がガラッと変わったように感じます。震災の時は、全国の医療者が東北に駆けつけました。そこで多くの人が「自ら進んでやることが、医療者の1つの役目なのだ」と自覚したのでしょう。

米倉誠一郎: ある意味、目覚めてしまったわけですね。さらに面白いのは、日本の離島やへき地も上手に巻き込んでいることです。

吉岡秀人: 自治医科大学のように、従来から離島やへき地に医者を派遣する仕組みはあります。しかし、皆さんご承知のように、各地の医療活動はギリギリで回っているのが現状です。医者は1人でも何とか対応できますが、最大の問題は看護師が圧倒的に不足していることです。

以前、海外を目指す看護師に「日本の離島やへき地にも行きたいですか?」とたずねたところ、皆さん「やってみたい」と言われました。そこで、海外での長期活動を希望する看護師を対象に、ある仕組みを作りました。

まずは前半のステップとして、僕達が提携する長崎県の離島やへき地で6カ月間の国内研修、具体的には現地の病院で働いてもらいながら、海外で働くための研修を行います。その間、休暇を利用して数日間の海外短期研修も行います。

実は、離島やへき地では人材派遣会社に看護師を依頼しており、1人のスタッフに対し、一般的な相場よりも高額なコストがかかっています。しかし、ジャパンハートの仕組みを使えば、相場通りの給料を払い、様々な援助をつけても格安になるため、非常に喜ばれています。そして6カ月後、海外で働いてもらいます。

米倉誠一郎: 海外だけでなく日本の地域医療にも貢献し、参加者も喜んで働く。まさに三方良しだ。こちらも研修費をいただくのですか?

吉岡秀人: 最初に100万円いただきます。

米倉誠一郎: えー、100万円!

吉岡秀人: とはいえ、離島やへき地の病院から出る給料は、全額本人に渡されます。また、住居などのサポートもあり、金銭面の負担はほとんどないため、半年後には100万円がゼロに戻る、むしろプラスが出ます。したがって、海外に出発する際はお金を含め、何も心配がない状態になるわけです。

米倉誠一郎: なるほど、素晴らしい仕組みですね。ジャパンハートには長期だけでなく、短い休暇を活用して数日間参加できるプロジェクトもありますね。活動に参加するハードルが低くなり、たくさんの人がジャパンハートにやって来るようになっている。

吉岡秀人: 多くの人を巻き込み続けるためには、誰もが参加できる仕組み、持続性・再現性を伴った仕組みづくりが大切になります。個人に依存する仕組みは絶対に長続きしないからです。

僕は現在、年間1,000件の手術を行っていますが、10年後はどうなるかわかりません。「10年後も手術数を維持、あるいは増やしていくためには?」と考えた時、例えば365日働く僕を100分割し、100人で回せるようになれば、1人あたり3日ずつでOKになる。さらに、常に新陳代謝が繰り返されるため、1人あたりの負担も少なくなり、常にフレッシュな状態が保たれます。

これはアジアだから成立する仕組みです。夕方まで自分の病院で働き、夜の便で日本を出発すれば、明朝には現地の病院に着きます。時差もほとんどありません。世の中にありそうでなかった仕組みを作ったら、結果として参加しやすい仕組みとして多くの医者や看護師が認めてくれたわけです。

僕の信念は、「誰も不幸にしないようなことは、絶対うまくいくに決まっている」です。トコトン考え抜いて、自分も含め誰ひとり不幸にしないことであれば、絶対に取り組んだほうがいい。それが1つの基準になっています。

米倉誠一郎: 思いを実現しようにも、善意のボランティアだけでは、資金的にもマンパワーとしてもどこかで疲弊してしまいます。その意味でも、持続性と再現性を持った仕組みを次々と作り出していることが本当に素晴らしい!



該当講座


小さな一歩が世界を変える! 
~「医療」×「教育」で世界に挑戦する日本人イノベーター~
小さな一歩が世界を変える! ~「医療」×「教育」で世界に挑戦する日本人イノベーター~

吉岡秀人(小児外科医・ジャパンハート)×三輪開人(e-eduication)米倉誠一郎(日本元気塾塾長)
社会的変革で途上国を変えようとする日本人イノベーターがテーマ。吉岡氏と三輪氏はミャンマーで出会い「医療」×「教育」で新しいイノベーションを引き起こそうとしています。“入院中の子供たちに映像による教育を提供する”ことにより子供たちに将来、未来、夢をもたらすことです。今までの各々の活動、そして新しい出会いがもたらした新たな取組みの可能性、社会的インパクトについて多面的に考えます。