記事・レポート

Incubation Hub Conference 2014
グローバル・イノベーターの条件

オープンイノベーションが新たな未来を創る

BIZセミナー経営戦略キャリア・人
更新日 : 2015年06月10日 (水)

第5章 数字で見る日本とシリコンバレーの差


 
歴史の厚み、イノベーターの密度

松本真尚: ここからは、ソニーでSAP(Sony Seed Acceleration Program)の推進に携わる新規事業創出部の田中章愛さん、ヤフージャパンの副社長/COOである川邊健太郎さん、メルカリの山田進太郎さんを交えたパネルディスカッションに入ります。

今回は3つのテーマを用意しました。1点目は、日本とシリコンバレーの違いについて。2点目は、IT市場で起こりつつあるパラダイムシフトについて。3点目は、日本を起業大国へと変えていくために必要なこと。まずは1点目の「日本とシリコンバレー」ですが、実は興味深い数字があります。

<3兆9,137億円 vs 684億円>
前者は米国、後者は日本の数字ですが、2013Q3~2014Q2のベンチャーキャピタルの投資額です。実に57倍もの差があります。さらに、米国にはエンジェル投資家が多数存在しており、その規模は年間2兆円とも言われています。これを含めれば、リスクマネーの供給量は90倍以上になります。こうした環境の中で、日本のベンチャーは戦っていかねばならないわけです。

<43兆円 vs 9兆円>
2014年9月19日時点の数字です。前者は、2000年以降に創業した米国の代表的なベンチャー11社の時価総額の合計です。後者は、現在の日本の代表的なベンチャー15社の時価総額の合計です。ここでも5倍近い開きがあります。

<40兆円 vs 89兆円>
同じく、2014年9月19日時点の数字です。前者はGoogleの時価総額。後者は、トヨタ自動車やソフトバンクなど、東証一部トップテン企業の時価総額の合計です。Googleだけで、名だたる日本企業10社の半分に匹敵しています。

これらの数字を見る限り、日米のベンチャーを取り巻く環境には、圧倒的とも言えるほどの差があります。山田さんはまさにいま、メジャーリーグに挑もうとしているわけですが、いかがでしょう?
山田進太郎: たしかに、シリコンバレーを訪れると、歴史の違いを感じます。イノベーション拠点としての歴史は、1939年に創業したヒューレット・パッカード、1955年に開設したショックレー半導体研究所などから始まりました。その後、大成功した企業から億万長者が何人も現れ、彼らがシリアルアントレプレナーや投資家となり、次々と新しい分野を開拓していった。こうしたサイクルが歴史に厚みを加え、現在の状況を生み出していると思います。

しかし、最近は日本においても同じようなサイクルが生まれ始めており、起業家のレベルも上がってきました。日米の格差を埋めるには時間が必要ですが、おそらく10年後には日本のベンチャーを取り巻く環境も相当良くなると思います。

松本真尚: 川邊さんはいかがでしょう?

川邊健太郎: 追いつけないことはない、と考えています。ヤフージャパン、ソフトバンクは、「爆速」を合言葉に、年々倍々の成長を目指しています。拡大解釈をして、アリババも含めましょう(笑)。ソフトバンクは同社の株式を持っているため、いわばグループです。それぞれ倍々に成長していけば、近いうちに時価総額100兆円も夢ではない。だから、追いつけないことはないです。

松本真尚: なるほど。日米の差について、田中さんはどう感じていますか?

田中章愛: 実は昨年1年間、研究員としてスタンフォード大学に留学しましたが、キャンパスのすぐ隣に、世界的ベンチャーのオフィスがあり、当たり前のように企業の方が構内を散歩している。そのような空気感の中で、学生とも気軽に交流し、アイデアや事業をブーストさせていました。シリコンバレーは、イノベーションを生み出す環境がコンパクトにまとまっており、かつ、良い意味での競争もあり、切磋琢磨しながら成長してきたのだと思います。一方、日本には「ベンチャー村」というか、意識の高い人たちがギュッと凝縮している場が少ないと感じており、それが日米の差につながっていると思います。

僕は、友人のデザイナーとVITROというユニットをつくり、“放課後スタートアップ”のような活動を行っていますし、東京・品川区のものづくりコミュニティ(品モノラボ)にも参加しています。新しいモノをつくりたい人が集まるコミュニティは、日本でも確実に増えていますから、想いを持つ人々を有機的に結びつける仕組みがあればいいなと思います。