記事・レポート

Hack the Body~障がいを「可能性」に変える

遠藤謙がつくる、人間を進化させる義足

更新日 : 2015年04月08日 (水)

第3章 歩行に特化した高機能なロボット義足


 
人間の歩行とロボットの歩行

遠藤謙: 現在は、3つのプロジェクトに取り組んでいます。歩行に特化した高機能なロボット義足、途上国向けの義足、競技用義足の研究開発です。まずは、ロボット義足からご紹介します。

「歩く」という動作が失われてしまうと、健康が損なわれるだけでなく、生活の質も低下してしまいます。高齢になり寝たきり状態になると、その後の寿命が短くなるという研究データもあります。健康を保つ、快適な生活を送る、あるいは今後の高齢化社会を考えても、歩行をサポートする技術の開発は非常に重要です。

そもそも、人間が歩く際は、骨や筋肉、関節などが非常にうまい具合に連動しています。さらに、人間の筋肉はとても軽いけれど、非常にパワフルです。例えば、一歩を踏み出す時はまず、片足に体重を乗せ、ふくらはぎや足先の筋肉にエネルギーを溜めます。そして、地面を蹴り出す瞬間、バネの役割を果たすアキレス腱など足首の動きにより、そのエネルギーを一気に解放します。こうした仕組みのおかげで、人間は信じられないほど効率良く、少ないエネルギーで歩くことができます。

一方、一般的なヒューマノイドロボットは、人間のように瞬間的にパワーを発揮しながら歩くと、実は効率もバランスも悪くなってしまいます。そのため、ロボットは電気とモーターの力で足をゆっくりと持ち上げ、常にバランスを重視しつつ、一定の速度で歩きます。「歩く」という言葉は同じでも、ロボットと人間の歩行はまったく別物です。
遠藤謙のロボット義足

遠藤謙: ロボット義足は、電気とモーターの力により、人工的に足首の動きを再現するものです。人間が使うため、その動きに正確に同期できなければ、喜ばれる義足とはなりません。そのため、ロボット義足の研究では、技術を高める以前に、人間の動きを深く知る必要があります。僕はMITメディアラボのバイオメカニクスグループで、解剖学、生理学、バイオメカトロニクスなどの視点から、人間の歩行の仕組みを細かく分析し、研究開発に役立てていました。

現在、一般的に使われている義足は、カーボンファイバー製のものが主流です。軽くて強度も高く、体重がかかるとしなるため、その反発力が歩行のサポートとなります。しかし、これだけでは人間の動き、特に足首の動きを再現できません。そのため、どうしても不自然な歩行となり、不足するパワーを別の筋肉で補うため、かなりのエネルギー消費を伴います。

ならば、モーターをつければいいかと言えば、それも難しい。そもそも、モーターだけで筋肉のパワーを再現しようとすると、大きくて重いモーターが必要になり、それを動かすバッテリーも必要になる。これでは義足が重くなり、歩きにくい。人間の歩行という複雑なシステムを人工的に再現することは、本当に難しいのです。

僕が目指すのは、筋肉の代わりとなるモーターをつけ、同時に軽量化を実現すること。そこで開発したのが、モーターとバネ(スプリング)をつけ、足首の動きを再現するロボット義足です。まだプロトタイプの段階ですが、バネの力を組み合わせることでモーターの小型化を図っています。実際にテストをしてもらいましたが、「地面を蹴る力が加わり、従来の義足よりも楽に歩ける」との感想を得ています。

技術やコストを含め課題はたくさん残されていますが、数年以内には必ず実用化したいと考えています。また、今後は歩く技術を応用して、走ったり飛び跳ねたりできる技術も開発し、将来的にはこれらをビジネスとして成立させたいと思っています。

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