記事・レポート

Hack the Body~障がいを「可能性」に変える

遠藤謙がつくる、人間を進化させる義足

更新日 : 2015年04月08日 (水)

第1章 僕は彼のために何ができるのか?

2020年東京パラリンピックで、義足の陸上選手が健常者の世界記録を破る——。そんな驚くべきビジョンを語るのは、義足エンジニアの遠藤謙さんです。ロボット技術を駆使し、今までにない義足づくりに挑戦する遠藤さんは、2012年、マサチューセッツ工科大学(MIT)発行の科学誌により「世界を変える35歳以下のイノベーター35人」に選出されています。遠藤さんが目指す「人間を進化させる義足」とは、どのようなものなのか?イノベーティブな発想に満ちたトークをお楽しみください。

講師:遠藤謙(ソニーコンピューターサイエンス研究所研究員/株式会社Xiborg代表取締役)

遠藤謙(ソニーコンピューターサイエンス研究所研究員/株式会社Xiborg代表取締役)
遠藤謙(ソニーコンピューターサイエンス研究所研究員/株式会社Xiborg代表取締役)

 
自分の足で歩きたい

遠藤謙: 僕は現在、ソニーコンピュータサイエンス研究所(Sony CSL)の研究員とともに、義足の開発を行う株式会社Xiborg(サイボーグ)の代表取締役を務めています。まずは、義足との出会いからお話ししていきましょう。

僕は、静岡県沼津市で生まれ、幼い頃はラジコンやプラモデルを作ったり、マンガを読んだりと、至って普通の子ども時代を過ごしました。その後、モノづくりが好きだったこともあり、地元の高校から慶應義塾大学理工学部、さらに大学院へと進み、ヒューマノイドロボットの研究に携わりました。

当時は、ロボットデザイナーの松井龍哉さん、山中俊治さんらと一緒にロボットパーツの研究に取り組みながら、「いずれは社会に貢献できるロボットをつくりたい」などと考えていました。そんな時、僕の人生を変える出来事が起こりました。2004年のある日、高校時代から仲の良かったバスケ部の後輩が、「骨のガン」とも言われる骨肉腫を患い、左足の大腿部を切断することになったのです。

当時は大学院の博士課程に在籍し、ロボットの二足歩行を研究していました。お見舞いに訪れた際、少しでも彼の気を紛らわせたいと思い、僕はロボットが歩く動画を見せました。すると彼は「これって何の役に立つの?」と言い、続けて「自分の足で歩きたい」と呟いたのです。

ロボットの研究は未来の技術革新につながり、そこから多くの人々に役立つものが生み出せる。僕はそう確信していました。一方でそれは、長期的な視点に立って研究するものであり、すぐに結果が出せるものでもありません。彼の言葉を聞いた時、僕は自分の持つ技術を通じて、“できる限り早く”彼の役に立つものをつくりたいと思いました。科学技術に携わる人間として、何ができるのか? 僕はその答えを懸命に探しました。

ヒュー・ハー教授との出会い

遠藤謙: そうした時、たまたま出席した学会で、MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボのヒュー・ハー(Hugh Herr)教授を知りました。彼は10代前半から世界でも指折りのロッククライマーとして活躍した人物ですが、17歳の時、冬山で負った重度の凍傷により、両足膝下の切断を余儀なくされ、突然歩くこともままならない状況になったそうです。

しかし、彼は歩くことのみならず、大好きな山に登ることも諦めませんでした。独学で義足の研究を始め、やがてロッククライミングに適した義足をつくってしまったのです。彼の義足は、岩壁の形状に合わせて自由にカスタマイズできます。素晴らしい義足を手に入れた彼は、両足を失う前よりも高く険しい山に登れるようになったそうです。ハー教授は、障がいを悲観するどころか、イノベーションを通じて、それを「人間の新しい可能性」へと変えていたのです。

現在、MITでロボット義足の研究者として活躍するハー教授は、こう語っています。

“There is no such a thing as a physically disabled person.
             There is only physically disabled technology.”
(この世に障がい者は存在しない。障がいはテクノロジーのほうにあるのだ)

この言葉を目にした時、心の底からワクワクしました。自分にできることを見つけたからです。当時は博士課程修了まであと数カ月というタイミングでしたが、迷わずMITへの留学を決め、ハー教授の研究室に飛び込みました。

MITの校章にはラテン語で“Mens et manus”(理論と実践)と記されています。元々、MITは様々な技術を学ぶ職業訓練校としてスタートした大学であり、現在に至るまで、世界で最も実践を重んじる大学として知られています。学問を机上の議論で終わらせず、最終的に社会の役に立つ具体的なモノを生み出すことを目指しているわけです。

僕自身も、論文提出で終わる研究や、社会へのインパクトが見えにくい研究は好きではありません。どうせやるのなら、リアルの世界で、自分の目に見える形で、誰かの役に立つモノを生み出したい。現在は“Mens et manus”という言葉を胸に、日々活動しています。

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