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カフェブレイクブックトーク
更新日 : 2014年10月06日 (月)

第7章 メトロポリス




総人口の6割以上がひしめく

 世界にはロンドン・ライブラリーはじめ、幾つかの会員制図書館がありますが、ここ六本木ライブラリーは極めてユニークで、際立ってメトロポリタンな存在です。ライブラリーはいま東京の独特の都市装置に成長しつつありますが、このような施設が必要とされ、どのように存続しているのかについて明確に語ってくれる本はまだ出版されていません。ただ、もしかしたら『都市の誕生』(P・D・スミス/河出書房新社)が該当するかもしれません。この本は古今東西のメトロポリスの成り立ちと隆盛(衰退も)を調べ、平たく言うと、多くの人びとが、非常に多くの人たちが申し合わせたわけではないのに一カ所に集まり、それぞれがそれぞれの生活を営むようになるとどんなことが起こるか、どんなモノを創りだすか、つまり総じて都市文化を隈無く考察し、その先までを展望しています。



 また、このところ都市の政治・経済・社会・文化や都市計画をテーマとする重要な本が数多く出版されており、ライブラリーでも少なからず受け入れていますが、ここでは『反乱する都市』(D・ハーヴェイ・作品社)と『都市はなぜ魂を失ったか』(C・ズーキン/講談社)を取り上げます。

 前者は、世界の大都市での最近の暴動の根源に何があるのかを論じています。それらは革命騒ぎとは言わないまでも、ごく最近のバンコクやキエフでの大騒動は、東京での脱原発デモとはまったく異質の集団行動で、それをはるかに超える大騒動です。〈都市=国〉ではありませんが、いまどの国でも全人口の60%は都市空間で生活しています。したがってその国の経世済民は、都市住民の生活の状況を端的に反映することになります。その人びとの生活がその熟語の意味の枠内にあり、許容できる範囲であればいいですが、極端に超えて厳しくなったとき、理由は何であれ、多くの人びとがそのような行動に走ることになります。著者はその原因を「資本主義」の用語で指摘していますが、資本を〈10人中の1人〉に投ずるのではなく、「資本のアーバニゼーション」を基盤とした「都市コモンズ」創成の成否が反乱の鍵となるとしています。議論は月並みな大都市論、あるいは都市計画論とはひと味違う分析です。

 後者は、とりわけ東京の将来を創る上で重要な示唆に満ちています。私が東京に出てきたのは1958年で、戦後の雰囲気が抜け切れていませんでしたが、それでも東北の田舎都市にはない活気に満ちあふれていました。以来半世紀東京は発展し、〈江戸東京〉とは異質な雰囲気を作りながら、世界のメトロポリスに成長しました。しかしいま、〈都心〉とされている地域は別として、諸所で、この本の書名からその表現を借りるならば、〈魂〉が抜けた、あるいは抜け始めた空気を所々で感じます。この本は、60年代のニューヨーク都心の荒廃を摘発し、郊外都市開発の重要性を提唱した米国ジャーナリスト、J・ジェイコブズの書いた『アメリカ大都市の生と死』を引き継ぐあたらしい都市論で、都市再生に関しては前著と主張を同じくしています。すなわち都市資本の大衆化を基盤とした都市公共空間と都市インフラの創成の重要性を、ニューヨークを事例にして議論しています。

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