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天上の舞 飛天の美
世界遺産・平等院鳳凰堂に秘められた美と感性

神居文彰住職が語る千年のストーリー

教養文化キャリア・人
更新日 : 2014年05月14日 (水)

第1章 後世に受け継ぐ文化財

2014年春に修理落慶を迎え、創建当時を彷彿とさせる鮮やかな姿によみがえる世界遺産・平等院鳳凰堂。この修理期間中、寺外初公開となる国宝「阿弥陀如来坐像光背飛天」「雲中供養菩薩像」など、鳳凰堂を彩る貴重な文化財がサントリー美術館において特別展示されました。今回の「平成の大修理」を主導する平等院住職・神居文彰氏に、平等院鳳凰堂の美と感性にまつわるストーリーを語っていただきました。

スピーカー:神居文彰(かみい・もんしょう/平等院 住職)

神居文彰(かみい・もんしょう/平等院 住職)
神居文彰(かみい・もんしょう/平等院 住職)

 
文化財の歴史とは、修理の歴史でもある

神居文彰: 「平等院の住職が講演する」と言うと、高齢の僧侶が登場すると思われる方が多いため、私が登場すると「今日は住職の代わりにお弟子さんが話すのか」と、皆さん勘違いされます。本日は正真正銘、平等院の住職がお話ししますのでご安心ください。

2013年11月末から2014年1月初旬にかけ、サントリー美術館で「平等院鳳凰堂平成修理完成記念 天上の舞 飛天の美」が行われます。このタイトルのなかで、本日のキーワードとなるのが「修理」です。

形あるものは必ず、時間とともに変化していきます。特に私たちが暮らす日本は、西洋のような石の文化ではなく、木の文化を基調とする国です。木は長く風雪に耐えながらも、少しずつ朽ちるなど変化していく。したがって、定期的に手を入れ、守っていく必要があります。文化財の歴史とは、すなわち修理の歴史でもあるのです。



文化の背景まで守る

神居文彰: 修理中の鳳凰堂は、仮設の素屋根で覆われています。足場には丸太が使われており、これらは番線により組み上げられています。番線は針金よりも太い鉄線で、太さにより番号で呼ばれるため、この名がつきました。番線がなかった時代は、麻縄などを使い、組み上げていたようです。

丸太は約5,000本、番線は約2万本使用しています。安全な足場を組むためには、反りのない真っ直ぐな丸太が必要になりますが、現在はそうした丸太が非常に入手しづらくなっています。今回の修理では、古い電柱や和室の床柱などに使われていた木も集められました。失われつつあるのは、材料だけではありません。丸太と番線で足場を組み上げる技術をもつ方も、年々少なくなっています。

鳳凰堂の大きさは、左右約47m、奥行き約35m、高さ約13.5mです。これだけ大きな建造物を覆うことは大変な作業です。しかも、縦横に複雑な構造をしているため、足場を組むにも通常の数倍の手間と時間がかかったと言われています。普通に考えれば、鉄パイプで足場を組むほうが効率的です。しかし、文化財の修理はあえて伝統的な方法で行います。

文化を未来へ伝えていくためには、伝統的な技術はもちろん、背景にある先人の想いまで含め、しっかりと受け継いでいかねばなりません。文化とは、常に人が目を向け、手を差し伸べていかなければ、失われてしまいます。鳳凰堂は、いまを生きる私たちだけに与えられた財産ではありません。この機会に、修理の意味をいま一度考えていただければ幸いです。

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