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どうすれば日本人は、一流のインベスターになれるのか?

三田紀房、松本大が語る「投資の意義」

更新日 : 2014年04月10日 (木)

第2章 投資の世界で常に正しいのは、マーケットである


 
100億円単位の売買からスタート

佐渡島庸平: 『インベスターZ』の主人公・財前君は、右も左も分からないまま投資を始めることになります。松本さんが投資の世界に入ったときは、どのようにスタートしたのですか?

松本大: ソロモン・ブラザーズではまず、債券部に配属されました。しかし、新人にトレーディングは任されず、最初はお客様から来た注文を債券のマーケットにつなぐ仕事を担当しました。買い手・売り手を見つけて売買を成立させ、手数料をいただくわけです。その後、会社から運用枠を与えられ、米国債の自己売買を行うようになりました。1回で売り買いする金額は100億円単位でした。

三田紀房: 漫画と同じですね。100億円となると結構な金額ですが、それは上司の指示で決まるのですか?

松本大: 金額はお客様が決めます。債券は株式とは違い、証券取引所のような仲介機関はなく、相対取引(あいたいとりひき)が基本です。トレーダーが企業などのお客様と直接やり取りし、売り買いを行うのです。たとえば、お客様から「100億円分買いたい(売りたい)」と注文を受け、債券市場を通じて取引相手を探し結びつけることで、手数料をいただきます。

実は米国債のような債券は、落とし穴が少ないのです。価格は売り手と買い手の関係で変動しますが、マーケット自体が巨大ですから、価格が下がり、慌てて売りに出しても、売れてしまうことが多い。ところが、デリバティブ(金融派生商品)など複雑なものは、「間違えたから急いで売ろう」となっても、簡単には売れません。流動性が低いからです。

私の場合、米国債からスタートし、その後はスワップ、キャップ、フロア、アービトラージなど、デリバティブを自分なりのアイデアでつくり、機関投資家などを対象に売買しました。それぞれ取引の仕組みが複雑すぎるため、非常に説明が難しいものなのですが……。こうしたことを行ううちに、次第に自分の扱う取引高が大きくなっていきました。

現在は東京金融取引所(TFX)に名称が変わっていますが、私が取引をしていた時代は東京金融先物取引所(TIFFE/タイフ)と呼ばれていた機関があります。1993年に当時世界最大と言われていたシカゴの取引所よりも、タイフの取引高が上回った時期がありました。その頃、私はタイフで扱われていた円に関する3カ月金利先物の取引高全体の10%を一人で抱えていました。



トレーダーには“つもり”が肝心

佐渡島庸平: おそらく想像もつかない金額だと思いますが、それだけの取引高を抱え、しかも売り買いが複雑に入り混じるなか、すべての状況を把握できるものなのですか?

松本大: 把握しているつもり、でした。実はこの“つもり”であることが、トレーダーとして重要なポイントになります。自分なりの理屈がなければ、間違った方向に進んだ場合に気づくことができなくなります。価格に踊らされているうちに取引から抜け出せなくなり、結果的に損失を被ってしまうのです。そうした意味でも、常に自分なりの理屈を持ちながら状況を把握しておく必要があります。

しかし、自分なりの理屈は必ずしも“正しい”とは限りません。マーケットが自分の理屈と逆に動けば、その理屈は“間違い”だったことになる。つまり、投資の世界において常に正しいのは、個人の理屈ではなく、マーケットなのです。

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インベスターZ(1)

三田紀房
講談社