記事・レポート

「まちの保育園」が実践する、コミュニティデザイン

地域ぐるみで子どもを育てる

建築・デザインマーケティング・PRキャリア・人
更新日 : 2014年02月07日 (金)

第7章 コミュニティの力 〜全方向から子どもを見つめるために


 
木の年輪というイメージ

松本理寿輝: 3つ目は「コミュニティの力」です。私たちは開園前、子どもの“らしさ(個性)”をどのように見つめ、どのように育んでいくのかについて考えました。

人間は自分のフィルターを通して他者を見ています。ですから、他者のあらゆる可能性や個性を、もれなく見つけられるとは限りません。そうであるならば、様々な可能性や個性を受け止められるよう、多くの目、心で子どもを見つめてみようと、私たちは考えました。そこでコミュニティの大切さを感じました。コミュニティの力を活用して、1人ひとりの子どもをあらゆる方向から見つめていくわけです。

私たちは「まちの保育園」を中心としたコミュニティを、木の年輪のように捉えています。まず、中心には子ども。すぐ外側の円には、保護者と保育者がいます。もう1つ外側の円には園の関係者や子どもの親族、さらにもう1つ外側に地域の人々がいる。すべてを取り囲むように社会が存在する。年輪の中心、「芯」の部分が真っ直ぐで力強くあるほど、木の年輪、つまりコミュニティは豊かに育まれていくでしょう。

したがって、保育園と地域をつなぐことは大きな目標ですが、保護者を置き去りにして、子どもと地域の人ばかりが深く関わっている状況では、目指すようなコミュニティは育まれません。まずは、子どもを中心にした、保護者、保育者の信頼関係があって、はじめて地域とのつながりが意味をもちます。私たちは、コミュニティの年輪が豊かに育まれるために、コミュニティの「芯」を常に意識しながら、すべての活動を組み立てているのです。

地域を巻き込むための具体例

松本理寿輝: 地域の巻き込み方の具体例には、大きく3つあります。1つ目は、保育園のボランティアになっていただくこと。はじめに対話を通して互いの想いを共有し、その方が取り組みたい内容などお聴きし、一緒に方法を考えていきます。ボランティアには、必ず居場所と役割があります。来園されたときに座っていただく椅子、荷物を置いていただく場所があり、清掃や保育活動のサポートなどの役割を明確に示します。居場所と役割があれば、地域の方々も安心して来園できるのです。

2つ目が、イベントです。地域の音楽家と共催する音楽会、町内会高齢者サークルや福祉施設とのイベント、アートイベント、学びの会、小学生との社会体験、子育てサークル主催のイベント、園庭ピクニック、保護者の方主催のイベント、先ほど出てきた「子どもグッズ交換会」などです。

3つ目が、具体的な保育活動に携わっていただくこと。例えば、陶芸教室の先生と造形をする。芸大教授に、子どもたちの遊具をつくっていただく。農家の方に、食について話をしていただく。それから、学生や地域ボランティアの方に自分の得意なことを紹介してもらうこともその1つでしょう。こうした3つの観点から、地域を巻き込む具体的な活動を企画しています。


該当講座

シリーズ「街・人を変えるソーシャルデザイン」
“地域ぐるみで子どもを育てる”
松本理寿輝 (まちの保育園・こども園 代表 / まちの研究所株式会社 代表取締役 )
古田秘馬 (プロジェクトデザイナー/株式会社umari代表)

松本理寿輝(ナチュラルスマイルジャパン代表取締役)× 古田秘馬(株式会社umari代表)
2011年に小竹向原に開園した「まちの保育園」は、地域の人が利用できるベーカリーやカフェ、ギャラリーが併設され、従来の保育園のイメージとは異なる開放的な雰囲気。世代を超えた対話の中で、地域ぐるみで子どもを育てることを目指しています。今こそ、どのような幼児教育が必要なのか本質的に考え、街・地域の中で人々が対話し、大人も子どもも学びあえる社会のあり方を考えます。


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