記事・レポート

自分らしく輝く

白木夏子、安藤美冬 ーー 多様性の先に見えた新しい起業のカタチ

更新日 : 2013年06月28日 (金)

第2章 エシカルジュエリーとの出会い

白木夏子(HASUNA Co.,Ltd.代表取締役・チーフデザイナー)

 
インドで見た貧困の現実

白木夏子: 世界の課題に目を向けるきっかけとなったのは、短大時代にフォトジャーナリスト・桃井和馬さんの講演を聴いたことでした。各地で起こる紛争、飢餓に苦しむ人々、破壊が進む地球の自然。世界の現実を知り、自分にできることはないかと思い、国際協力を学ぼうと決めたのです。短大卒業後、ロンドン大学キングスカレッジに入学し、発展途上国の開発学を専攻しました。

在学中、南インドに2カ月間滞在し、貧困層の方々と寝食を共にしました。訪れた村のなかに、アウト・カースト(ダリット※編注)の鉱山労働者が暮らす村がありました。彼らはまともな賃金を得られず、食事もほとんどできないなか、早朝から日暮れまで石を叩き続けていました。社会的な差別によって搾取され、大人や子どもは明日への希望もないまま、ただ働き続けていたのです。

鉱山から採掘されるのは、私たちの生活を豊かにするものばかりでした。例えば、雲母(うんも)と呼ばれる鉱石は、カメラのレンズや化粧品の原料として使われています。そのほか、付近の鉱山では大理石や金、宝石類も採掘されていました。私たちの豊かな生活の裏で、貧困に苦しんでいる人がいる。その事実に加え、「日本人なら何かしてくれるだろう」という村の人たちの期待にも、学生である私は何ひとつ応えることができませんでした。悔しさと無力感を抱えたまま、インドを後にしたのです。

ビジネスで世界を変えていく

白木夏子: 大学卒業後は国際協力の仕事を学ぶため、国連人口基金ベトナム・ハノイ事務所やアジア開発銀行研究所でインターンを経験し、NGOの活動にも携わりました。しかし、次第にある疑問が湧き上がってきました。こうした活動で本当に世界は変えられるのだろうか? 与える側・受け取る側の図式の中で援助を続けることが、途上国の人々の自立や幸せにつながるのだろうか?と。

貧困が起こる原因の1つは、行き過ぎた資本主義です。私たちの生活が豊かになるほど、その裏では貧困に苦しむ人たちが生まれていく。多くの国や企業が正しい倫理観で行動していれば、こうした課題は解決されていたはずです。しかし、21世紀になっても世界は依然として大きな課題を抱えたままです。

世の中の多くは、お金とビジネスで成り立っている。ならば、お金のことを知り、ビジネスを通じて世界を変えていこう。与える側・受け取る側の枠組みから抜け出し、途上国の人々と対等な立場でビジネスを行い、自立を支えていこう。心の中に起業という選択肢が芽生えてきたのです。

企業経営とお金の流れを学ぶため、東京にある不動産投資ファンドに就職しました。この頃、起業の方法を模索するなかで、海外にエシカルジュエリーというものがあることを知りました。両親の影響を受けて幼い頃から興味のあったファッションやデザインの世界と、インドで見た光景がリンクし、ピタリとはまりました。

自分らしい方法で起業したいと考えていた私は、すぐに行動を起こしました。働きながらジュエリーデザインを学び、起業に向けた様々な準備を始め、2009年4月にHASUNAを立ち上げたのです。

編注※ アウト・カースト(ダリット/Dalit)
インド古来の身分制度であるカーストの外側にあり、ヒンドゥー教文化の中で最も激しい社会的差別を受けている人々。インドには1億人以上のアウト・カーストがいると言われている。ダリット(砕かれた人々、抑圧された人々)は、アウト・カーストの人々が自らを呼称する際に使用する言葉。