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井上慎一CEOが語る日本初・本格的LCC「ピーチ」の戦略

アジアの空を、もっと近く、面白く

日本元気塾経営戦略キャリア・人
更新日 : 2013年10月29日 (火)

第5章 「愛こそすべて。Love & Peach」に込めた思い


 
誰もがプロフェッショナル

井上慎一: 当社の社員はすべて3年間で契約を更新します。これは3年で辞めてもらうといった意味ではなく、いわゆる「踏み絵」です。我々はベンチャーであり、成功するためには、社員も退路を断つほどの気迫と覚悟がなければダメ。何となく就職して仕事をしていればいい、では困るのです。

採用時にこだわったのは、前職でプロフェッショナルを自認していた人を選ぶことです。こうした人は、自立して物事を考えられるため、自ら進んでおもてなしの心を発揮し、サービススキルを身に付けていくことができます。ライアンエアーのパトリック・マーフィー氏は「自分の運命は、自分でコントロールしろ」と言っていますが、そうしなければ、運命を他人にコントロールされてしまうような人材になってしまいます。

こうした基準をもとに面接を行った結果、実に多様な背景を持つ、骨のある社員が集まりました。例えば、事務系では世界的な監査法人で働いていた人、大手企業の法務部長、公認会計士など。また、大手航空会社で総飛行時間1万2000時間を越える経験を持つパイロットが、多数在籍しています。客室乗務員の経歴も、プロのダンサーやアーティスト、ミュージシャン、警察官、ウェディングコーディネーター、証券会社のトレーダーなど実に多彩です。なお、当社の社員は多国籍化しており、会議はすべて英語で行っています。

アジアの架け橋になる

井上慎一: このように、多様な背景を持つ、プロフェッショナルな社員で構成されているため、ともすればバラバラになりかねません。そこで、価値観の共有を、最も大切にしています。また、イノベーションを生み出すためにも、全員が共有でき、行動の共通軸となる価値観が重要です。そこで、「ヒト・モノ・コトの交流を深めるアジアの架け橋となり、人間愛を育むエアラインとなる」という経営理念を掲げました。

より多くの人々が、気軽に様々な場所へ出掛けることができる。そして、お互いを知り、文化を知り、考えを知ることで、感動が共有され、理解が深まっていく。交流・感動・理解により育まれる、国籍や文化を超えた人間愛。その人間愛をアジア、さらには世界へ広げたい。これこそが私たちPeachの夢です。愛こそすべて。Love & Peach。当社のすべての取り組みの根底には、こうした思いがあります。

経営理念を具体化したビジョンの1つ目は、Networking Asia〜日本とアジアをつなぐ充実した路線網を確立し、人的交流促進に貢献する。2つ目のThe lowest cost airline in Japanは、私たちが目指す「世界レベルのユニットコスト(1座席を1km運ぶためにかかる費用)の実現」を示しています。そのために、メリハリのある投資や、1円にこだわる費用対効果の見極めを徹底しています。

3つ目がA great place to work。これは、ピーチを取り巻くすべての人々とハッピーな関係を構築したいという思いです。お客様に喜びを提供するだけでなく、社員にとっても自らの価値を向上させていく会社でありたいと思っています。

経営理念やビジョンは、あくまでも「ピーチらしさ」に軸を置き、かなりの時間を費やして社員とブレストを行い、決めました。直感的にイメージをすることができ、日々の行動にも落とし込みやすい言葉を選び出しています。


該当講座

アジアの空を、もっと近く、面白く

~日本初・本格的LCC Peach の戦略~

アジアの空を、もっと近く、面白く
井上慎一 (Peach Aviation 株式会社 代表取締役CEO)
米倉誠一郎 (日本元気塾塾長/法政大学イノベーション・マネジメント研究科教授/ 一橋大学イノベーション研究センター名誉教授)

井上慎一(Peach Aviation㈱代表取締役CEO)×米倉誠一郎(日本元気塾塾長/一橋大学イノベーション研究センター教授)
日本初の本格的LCC(Low Cost Carrier)として、2012年3月就航したピーチ。これまでの航空業界と異なるやり方で、安定的な低コストを実現させ、かつ可愛らしく、気軽に利用できるブランドイメージで、順調に顧客を広げています。人々のライフスタイルを変えるイノベーションの本質と、今後のアジアでの事業展開・戦略に迫ります。


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