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為末大の「自分軸」のつくりかた

軸が決まれば、自分の存在を最大化できる

カルチャー&ライフスタイルキャリア・人文化グローバル
更新日 : 2013年04月30日 (火)

第2章 成功は「マジョリティの評価」で決まる

為末大(元プロ陸上選手)

 
100m走からハードルへ

為末大: 成功や勝利も同じです。大多数の人が「成功だ」「勝利だ」と言っている、世の中の“ものさし”を、受け入れて信じている。言い換えるならば「マジョリティの評価」です。例えば、陸上のトラック種目の花形と言えば100m走を思い浮かべる方がほとんど。これもテレビなどの影響で何となく皆が“ものさし”だと思っているからでしょう。

実は、僕は100m走の選手でした。中学生の時には日本チャンピオンで、当時は当たり前のように、100m走でオリンピックに行くという夢を描いていました。しかし、最終的にその夢は叶いませんでした。身長、体重、体格の伸びが中学生の時点でほとんど止まってしまう、早熟型だったのです。

高校に入学すると、少しずつ他の選手たちに追い抜かれていき、高校3年の時に僕が目指す道には先がないと、はっきりと分かりました。大好きな陸上は続けたいけれど、100m走では先がない。そう思い悩んでいた時、出会ったのがハードルでした。

撤退に付随する敗北感と後ろめたさ

為末大: 僕の知る限り、スポーツの世界では一度始めたことを途中で止め、別の道へと進路変更することは「撤退」と捉えられます。最後までやり抜かずに止めるのは単なる逃げだ、初志貫徹が本道だと、激しく非難されるのです。

ハードルを選択してから4年後、僕はオリンピック(2000年シドニー大会)に出場することができました。しかし、それまでの間は、敗北感や後ろめたさに苛まれていました。「ハードルが良いと思ったから選んだ」と声を大にして言いたいけれど、世間からすると「100m走から逃げただけ」と評価される。だから、なかなか自信を持つことができませんでした。

“個”がクローズアップされ始めた現在の日本でさえ、当時の僕と同じような思いを抱えている人は多いように感じます。最初は「マジョリティの評価」が高いものを目指しながら、途中でより自分らしいもの、より成功する可能性が高そうなものに変更する。頭ではそれで良いと思っていても、なんとなく感じてしまう、敗北感や後ろめたさ。「マジョリティの評価」は、深層心理の部分で「自分軸」をつくる作業を阻害する要因ではないかと感じます。

「マジョリティの評価」から距離をとる

為末大: 世の中の目立つ場所にいたい。注目を浴びたい。賞賛されたい。成功者だと言われたい。人間ならば、一度はこうした感情を持つことがあるでしょう。しかし、こうした感情が強くなればなるほど、「マジョリティの評価」からは一層離れがたくなっていきます。

過去には、僕にもそうした部分がありました。100m走はトラック種目の花形。だから、そこにいたい、そこで勝ちたいと思う。でも、早熟型だと分かり、それが難しくなってしまった。かといって撤退してしまえば、「マジョリティの評価」が手に入らなくなる。ハードルに転向する前後の時期は、こうしたジレンマを抱えながら自問自答を繰り返していました。

しかし、ある日僕は思ったのです。ハードルで得たメダルと100m走で得たメダルには、大きな差はないのではないか、と。競技人口から考えると、確かに実際のとりにくさは異なるし、世の中の評価にも差はある。けれども、自分自身が感じる価値には、それほど差はないのだと認識したのです。いま振り返れば、これが僕の「自分軸」づくりのきっかけだったのかもしれません。

「自分軸」をつくるためには、「マジョリティの評価」からどうやって距離をとるか、それが重要になります。むしろ、そこから距離をとっていけばいくほど、自らの人生における真の成功・勝利に近づいていくようにも思うのです。

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該当講座

自分軸で挑む~21世紀“個の時代”に必要なこと~
為末大 (Deportare Partners代表)
竹中平蔵 (アカデミーヒルズ理事長/慶應義塾大学名誉教授)

為末大氏×竹中平蔵氏
選択肢が広がり、価値観も多様化する今の時代、後悔しないため、よりよく生きるためにも、既成概念にとらわれることなく、自分の価値基準を持ち、自分で判断することが大切ではないでしょうか。『走る哲学』、『走りながら考える』等の著書を出版し、twitterでは14万以上のフォロアー、そして「為末大学」を立ち上げる等、常に自身の考えを発信し続ける為末氏に、「自分の軸を持つ」とは何かをお話いただきます。


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