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2012年版 いま、気に掛かる本たち

ライブラリーフェローによる、本にまつわる話

カフェブレイクブックトーク
更新日 : 2013年02月18日 (月)

第8章 この閉塞感は、貧しさゆえか?(2)

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貧困の実態と課題

澁川雅俊: 『幸せを売る男』が貧しい村の人びとに究極的にもたらしたものは貧困でした。『貧乏人の経済学』〔アビジット・V・バナジー、エスター・デュフロ/みすず書房〕は、政治・経済的な学術論考はさておき、なぜ貧乏人が貧乏な暮らしをしているのかを完全に理解できたときに、初めて克服する方法が見つかるはずだと主張しています。その考えの下で著者たちは、インドやアフリカなど開発途上国で1日1ドルの稼ぎしかない貧困者の、生きるための‘やりくり’の実態を克明に調べました。それは、この半世紀ほどで豊かになった大方のいまの日本人には想像を絶するものです。

ところで少し前に出版された本で『「豊かさ」の誕生成長と発展の文明史』〔ウィリアム・バーンスタイン/日本経済新聞社/2006〕があります。貧困ではなく富裕に焦点を当てていますが、バーンスタインの考えも『貧乏人の経済学』と基本的に同じです。

貧困というのは際立って近現代的問題で、ホッブズは『リヴァイアサン』の中で「(人びとはいつも〕孤独で、貧しく、意地悪く、暴力的である…)と書いており、19世紀に至るまで世界の人びとの普通の生活実態を忠実に表現していたと述べています。200年後となるいまの世界の多くの国々でそうした生活は、少なくとも物質的な側面では、無くなりました。しかし著者は、なぜ豊かな生活を享受できるようになったのかを、近現代の持続的な経済成長の裏側に潜むさまざまな条件を経済学だけの課題にするのではなく、広く人文・社会科学的見地から、時には科学技術分野の視点から掘り下げ、現在もなお〈リヴァイアサンの人びと〉のままで生活している人びとが、その状態を脱出するのに何が必要かを明らかにしなければならない、と主張しています。

世界的スケールで描かれた成長と発展の文明史と言ってもいい本ですが、日本のかつての成長と発展についても、多くの頁を割いています。その先行きについては、決して楽観的な見解を示していないのが気がかりです。

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