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ときには裏切られたり、人を傷つけたりもする。それでも、私は信じたい。

大宮エリー的『言葉の力』

キャリア・人文化
更新日 : 2013年01月09日 (水)

第1章 「思い」を伝えるために、まずは自分の心を覗いてみよう

コピーライター、エッセイスト、ラジオパーソナリティー、映画監督……。肩書きにとらわれずボーダーレスに活躍するクリエイター、大宮エリーさん。彼女が信じてやまない「言葉の力」とは? 一流ファッション誌を経て独立し、ファッションやアートなどさまざまな分野で先駆けとなるトピックを集めているジャーナリストの生駒芳子さんが迫ります。

ゲストスピーカー:大宮エリー(作家/脚本家/映画監督/演出家/CMディレクター/CMプランナー)
モデレーター:生駒芳子(ファッションジャーナリスト)

写真左:生駒芳子(ファッションジャーナリスト)写真右:大宮エリー(作家/脚本家/映画監督/演出家/CMディレクター/CMプランナー)
写真左:生駒芳子(ファッションジャーナリスト)写真右:大宮エリー(作家/脚本家/映画監督/演出家/CMディレクター/CMプランナー)

 
コミュニケーション下手から生まれた展覧会

生駒芳子: 2年目の六本木アートカレッジは、「アートでエネルギーチャージ」というテーマとしました。私は、六本木ヒルズ自体がアートの発電所だと思っています。今日は皆さんにも、たくさんエネルギーをチャージしてもらい、ご自身が発電所のようになっていただく。そんな楽しい一日を過ごしていただければと思います。

朝一番のクロストークには、脚本家から映画監督、そしてエッセイストと多岐に渡りご活躍の大宮エリーさんをお迎えいたしました。

大宮エリー: 大宮です。よろしくお願いいたします。(会場を見渡し)すごい人ですね。朝早すぎて、誰もいないんじゃないかと思っていました。

生駒芳子: そんなことないですよ、満席ですから! ところでエリーさんは最近、アートスペースでインスタレーション作品を発表されたんですよね。

大宮エリー: 2月に渋谷のパルコギャラリーで、<思いを伝えるということ>展を開催し、1万人以上来てくれました。でもね、実は私自身、あまり人とコミュニケーションを取ることができないんです。それで私がいま解決しつつあることを作品にしようと思いました。同じように悩んでいる人も多いってことだから。

「心に触れる」という体験を作品に

生駒芳子: エリーさん自身が、コミュニケーションが苦手だと。

大宮エリー: 楽しそうに見られがちなんですけど、実は生きるのが大変なんです。あるとき、カウンセラーの友達に相談したら「心の中をのぞくといいよ」とアドバイスされて、一晩中考えました。すると「あっ、○○ちゃんの言ったことに嫉妬しているんだ!」って気づいた。本当は認めたくなかったんですね。でも、動物の中で嫉妬したり、苦しんだりするのは人間だけ。だから「人間らしいじゃん! イエイ!」と思うようにしたら、すっと気持ちが楽になったの。

この体験を人に伝えられないかなと考えて、「心の箱」という作品を作りました。箱の中はチクチクしていたりして、「わー! なんだこれ? 怖ーい」となったりする。箱の中に手を入れて、心に触れる練習をするっていうね。

それぞれに受け取るストーリーが、作品を完成させていく

大宮エリー: 作品の後ろに回るとスケルトンで中身が見えるんです。箱の中身が実はタワシだったとか、ピーンと張ってある糸だったとか。心の中も、案外シンプルじゃんって思ってほしくて。あと、誰かが手を入れて「うわぁ!」となっているのも見ることが出来るんですよ。そんな風に、みんなが参加することで一つの作品になるものを作りたかったんです。

映画やドラマの場合、伝えたいテーマは常にひとつだけど、アートや自然って受け手がストーリーを抱くっていうか。例えば、夕日をみんなで見たときに、それぞれ心の中に浮かぶストーリーが違うでしょう? 星がもっと綺麗だった時代には、みんなで星に祈りをささげたり、相手を思いやったり……。私、ひょっとしたら、そういうことを思い出すためにアートがあるのかもしれないなって。そう思っているんです。

ときには裏切られたり、人を傷つけたりもする。それでも、私は信じたい。 インデックス