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スティーブ・ジョブズを通して学ぶ「感性訴求」

~iPod mini仕掛人、前刀禎明はいかにして世の中を動かしたのか~

経営戦略ビジネススキルキャリア・人
更新日 : 2012年08月31日 (金)

第5章 商品はもちろん、パッケージにもこだわる

前刀禎明(株式会社リアルディア代表取締役社長/モーションビート株式会社取締役会長)

前刀禎明: 何が欲しいかなんて、それを見せられるまでわかりません。iPhoneが登場する前に市場調査をおこなっても「こんな形の、テンキーのない携帯電話が欲しい」なんて言った人は誰もいなかったはずです。新しいものを世に送り出して、それをヒットさせる。これがアップルの戦略です。

そのためには、自分が欲しいものをつくればいいんです。ただし、どんなものを人が求めるようになるかを、ある程度感じ取れないといけません。だから自分の感性を信じるとともに、自分自身が未来のコンシューマーとして新しいものを見出していく力が必要になってきます。これが創造力です。

スティーブ・ジョブズはiPadを発表したとき「我々(アップル)は常にテクノロジーとリベラルアーツの接点に立とうとしてきた」と言いました。こんなことを言うメーカーはなかなかないと思います。アップルはこんなことを考えて、新しいものを打ち出してくるわけです。

アップルのこの姿勢はものだけじゃなく、パッケージにも表れています。iPod miniのパッケージはキューブ型で、開けると「Designed by Apple in California」と書いてあって、ちょうどその文字の下にiPod miniが入っています。その反対側の部分にはアクセサリが入っていて、ふたを開けると「Enjoy」、楽しんでねと書いてあるんです。こういう細かい、人の感性に訴えかける部分をとても大切にしているわけです。「神は細部に宿る」と言いますが、まさにその通りで、妥協を許さない、徹底的なこだわりがあります。

こうして革新的なものを売り出してくるアップルに対して、今、日本のメーカーが出しているものは思考停止の妥協の産物ばかりです。だから大ヒットしないんです。例えばドアフォン。家の顔になるドアフォンのど真ん中に、メーカー名と品番が書いてある。メーカーに「どうしてですか?」と聞いたら、「社内規定だから」という答えが返ってきました。

私が聞きたいのはそんな答えじゃないんです。「どうして真ん中になければいけないのか?」ということを問い詰めたら、「カスタマーサービスに電話がかかってきたとき、お客様が品番をすぐわかるように」という答えが返ってきました。そんなの、電話で「お客様、ちょっと右をご覧ください」と一言言えば済む話じゃないですか。これが日本人の悪いところです。一旦決まってしまうと「決まりだから」ということで、疑問を持たない、変えようとしない、すべて逃げてしまう。

昔の家具調テレビのように居間にドーンと鎮座していて、メーカーロゴがついているのがうれしかった時代があります。でも今はそういう時代じゃないんです。ブランドロゴがついてないぐらいのほうが格好いい。価値観が変わっているのに、日本メーカーは自分たちの商品を変えてこなかったんです。

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前刀禎明 (株式会社リアルディア 代表取締役社長)

前刀禎明 (㈱リアルディア 代表取締役社長/ngi group㈱代表執行役会長 兼 取締役)
「企業が本質的な次元で価値を創り、人の心を動かす」にはどうしたらよいのか、そのために必要な「感性訴求」とは何か?Apple日本法人代表取締役として、ジョブズ氏と共に日本のAppleブランドを復活させたご経験を踏まえてお話し頂きます。


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