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「はやぶさ」の川口淳一郎氏が語る、奇跡のチームビルディング

栄光をつかんだチームに日本再生のヒントを探る in 日本元気塾

日本元気塾キャリア・人教養
更新日 : 2011年08月12日 (金)

第1章 「はやぶさ」が持ち帰ったイトカワのかけらから、何がわかるのか?

燃料切れ、通信断絶、エンジン故障など、度重なるピンチを乗り越えて世界初の偉業を成し遂げた小惑星探査機「はやぶさ」。絶望的な状況でもあきらめることなく栄光をつかんだチームはどのようにして生まれたのでしょうか。どん底でもチームの士気を高め、最上のアイディアでトラブルに対処できた秘訣とは。

ゲストスピーカー:川口淳一郎(独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 月・惑星探査プログラムグループ プログラムディレクタ)
モデレーター:米倉誠一郎(日本元気塾塾長/一橋大学イノベーション研究センター長・教授)

米倉誠一郎氏(左)川口淳一郎氏(右)

米倉誠一郎: 僕は日経BP社がやっている「日本イノベーター大賞」の選考委員ですが、2010年の大賞は全員一致で「はやぶさ」の川口先生に決まりました。「はやぶさ」は、これから日本がどうやって生きていくべきかを示していると思います。技術的なお話も大事ですが、きょうはチームビルディングや日本の技術の可能性についても川口先生にお話しいただきたいと思っています。

川口淳一郎:  2010年6月13日に「はやぶさ」は地球に帰還しました。カプセルの中には、イトカワ起源の粒子があることが確認されました。日本の宇宙開発が始まって50年、プロジェクトが始まって15年。長年の苦労が実ったのです。「夢のまた夢」といいますが、夢を超えた思いでした。

「小惑星に行くと何がわかるのか?」というと、地球の起源がわかります。地震や気象の手がかりがつかめるのです。なぜわかるのかというと——地球は球形の天体ですが、これは地球が液体、すなわち溶融した岩石でできているからです。溶解した岩石は高温な深部と、熱が逃げていく表面で温度差ができて対流が起きます。地殻(地面)が動くのは、溶融して対流している岩石の上に乗っているからです。これが大陸移動や地震が起きるメカニズムですね。

その地球の中身がどういう物質でできているかというのは、実は知ることが大変難しいのです。「火山が噴火した溶岩を分析すればわかるじゃないか」と思われるかもしれませんが、地球の半径は約6,400kmありますから、重い元素は下に沈み、表面には軽いものしかありません。噴火で地表に噴き出してくる溶岩は、溶解している岩石の中で一番軽いものなので、これだけを手がかりにして地球の中身を知ることはできないのです。

しかし、これが小惑星に行けばわかるのです。イトカワもそうですが、たいていの小惑星は中が溶けることがありません。だからいびつな形をしているわけで、重い元素も軽い元素も、みんな表面にあります。小惑星から試料を持って帰ると、地球の深部にしかないような物質があるのです。

では、気象との関係はというと——地球の気象というのは、地球の磁場と太陽活動に大きく左右されています。磁場ができるのは地球の中で液体の金属が運動しているからです。どういう金属が運動しているのかは表面からはわかりません。手がかりは、やはり小惑星の上にあるのです。

試料は微量でも精密な分析ができます。ですから我々は、微量でもいいので試料を持ち帰ることにこだわりました。

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関連書籍

はやぶさ、そうまでして君は—生みの親がはじめて明かすプロジェクト秘話

川口淳一
宝島社


該当講座

小惑星探査機「はやぶさ」奇跡のチームビルディング
川口淳一郎  (独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 月・惑星探査プログラムグループ プログラムディレクタ 宇宙科学研究所 教授)
米倉誠一郎 (日本元気塾塾長/法政大学イノベーション・マネジメント研究科教授/ 一橋大学イノベーション研究センター名誉教授)

川口淳一郎(JAXA)教授×米倉誠一郎教授 
2010年6月、小惑星探査機「はやぶさ」が「イトカワ」への7年間の旅を終えて奇跡の帰還—。今年最初の日本元気塾セミナーは、「はやぶさ」プロジェクトマネージャとしてミッションを指揮し、類稀なるリーダーシップ、的確な判断力で、奇跡の帰還に導いた川口淳一郎氏(宇宙航空研究開発機構(JAXA)教授)をゲストにお迎えし、ミッション達成のために目指すべき、理想的な“チーム”の姿を、皆さんと一緒に考えていきます。


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