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再生はあり得るか?
~日本の将来の可能性と危険性~

ジェラルド・カーティス氏(コロンビア大学教授)によるライブラリートーク

ライブラリートーク政治・経済・国際
更新日 : 2011年02月07日 (月)

第4章 TPPって何?

ジェラルド・カーティス氏

ジェラルド・カーティス: APECはどういう言葉の略か、ご存知ですか? Asia Pacific Economic Cooperation、アジア太平洋経済協力ですよね。では、TPPは? Trans-Pacific Partnership、日本語では環太平洋パートナーシップ協定といいます。要するに環太平洋の自由貿易を軸にした経済的な共同体をつくるということです。

アメリカ人に「TPPをどう思いますか?」と聞いたら、ほとんどの人は「What is TPP?」と聞き返します。アメリカの新聞では、TPPはほとんど話題になっていません。日本は「一刻も早くTPPの交渉に参加しなかったらバスに乗り遅れる。またアメリカの黒船が来ているので早く対応しないと大変なことになる」と言っていて、これこそ対応型外交ですが、対応型外交で一番大事なのは正確な情報を収集して、現実を客観的に把握することです。しかし、日本のマスコミのTPPについての報道は客観性を欠いています。近い将来に多くの国々がTPPに参加してアジア太平洋地域の経済共同体が作られる可能性はない、というのが現実です。

TPPはもともと、ニュージーランド、シンガポール、ブルネイ、チリという、自由貿易を重視する4カ国がつくった協定です。これにアメリカが「参加したい」と言ったんです。そのときすでにアメリカは、ニュージーランとシンガポールとFTA協定を結んでいたので、何もしなくても4カ国のうちの半分以上とすでに協定があったので言い出しやすかったのです。これがだんだんと「TPPをもっと広げて、ほかの国も入れよう。交渉しよう」という話になって、今9カ国が交渉のテーブルについています。が、どこまで本気でやっているのか疑問です。TPPにはカナダも中国も関係していません。韓国は「検討する」と言っている程度です。オバマ政権はTPPを支持していると言っていますが、議会の合意がなければ実現はできないのに、まだ話題にさえなっていません。日本のマスコミはTPP騒ぎをする前に、なぜもっと冷静に分析しないのか。それが今の日本にとっての一番大事な質問だと思います。

日本のTPP参加についての外国メディアの記事を読むと、「日本は『参加したい』と言いながら、そのために必要な農業の自由化をしない。真剣味が見えない」という批判的な記事が多いです。

「農業問題や自由貿易問題について、これからの日本はどうであるべきか」「これからの日本の経済政策はどうすればいいのか」という議論なしで、TPPに参加するとかしないとか論じてもあんまり意味がありません。菅総理が本当に「平成開国」をして自由貿易協定を結びたいならば、農業の自由化、規制緩和など思い切ったことをしないといけないのですが、それをやりたい意志があっても、それをやる力があるかどうか大きな疑問です。TPPができるなら日米、日韓などのFTAができるはずです。私はTPPを否定する必要はないと思いますが、日本は順番として、米国と韓国の二カ国間のFTA交渉を始めたいというシグナルをアメリカや韓国に送るべきだと思っています。

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