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再生はあり得るか?
~日本の将来の可能性と危険性~

ジェラルド・カーティス氏(コロンビア大学教授)によるライブラリートーク

ライブラリートーク政治・経済・国際
更新日 : 2011年02月04日 (金)

第3章 日本の外交は対応型。秩序なき今の世界では通用しない

ジェラルド・カーティス氏

ジェラルド・カーティス: 日本の外交の特徴は「対応型外交」です。英語でいえば、reactive diplomacy。"reactive"は受け身ではありません。reactiveとpassiveは違います。対応型というのは、ときどき非常に受け身になるけれど、ときにはすごくaggressive、積極的になるのです。重要なのは、対応型外交の特徴は、ほかの国が決めたことに対して「さあ、日本はどう対応すればいいか」と考える外交です。

昔、石原慎太郎さんとソニーの盛田昭夫さんが『「No」と言える日本』という本を書いてベストセラーになりました。「これは新しい日本だ。アメリカの追随外交とは違う日本を目指すんだ」と大きな話題になったのです。しかし、タイトルをよく見てください。『「NO」と言える日本』でも『「Yes」と言える日本』でも一緒で、要するに何かを頼まれてNoとかYesと言う日本であって、自分が何をしたいのかを言う日本ではないんです。前の外務次官の薮中三十二さんが最近出した本、『国家の運命』の中でこの点を指摘していますが、その通りだと思います。「日本のビジョンはこうだ。そのためにこういうことをやるんだ。これが日本の戦略だ。これにアメリカはYesかNoで答えてください」と言う日本ではありません。

鳩山由紀夫さんは「対等な日米関係」という意味のわからないフレーズで、非常にワシントンを心配させました。どうもこれは、アメリカの政策がよくないと思えば「No」と日本が自由に言える関係のようです。それはそれでいいのですが、「日本が何をいいと思って、何を提案するのか」というのが全くありません。

世界の秩序、つまりは国際政治構造、経済構造といったものが非常にはっきりしていた時代は対応型外交でもよかったんです。例えば、冷戦時代は日本が「非武装中立でもなく、ソ連と仲良くするのでもなく、安保条約をつくってアメリカと同盟関係をつくる。それが今の世界の中で対応するのに一番いい」という選択をしました。

しかし、冷戦構造が終わって20年。今は戦後の秩序が崩れた世界です。アメリカは依然として軍事的にも経済的にも世界で一番強い国ですが、リーマンショック前のアメリカに戻ることはできません。アメリカの世界における相対的な力が弱くなったということが、先日のソウルでのG20と横浜でのAPECを見るとよくわかります。

G20では重要な合意は実現できませんでした。経済政策では、アメリカは「一時的に政府が財政赤字を増やしても、国のお金を使って経済を刺激する」という考えでしたが、ドイツやイギリスなどのほかの国は「財政再建を早くしないと財政がパンクする。そのうち大変なインフレーションになって、とんでもないことになる」という考えで、合意が得られませんでした。通貨の調整の問題では、アメリカが人民元の切り上げを求めたら、中国は「問題はアメリカのドル安政策にある。それで世界がおかしくなっている」と反論し、G20の多くの国々がばらばらになって、その中で堂々とアメリカを批判することも少なくなかった。

G20のすぐ後に行われた横浜のAPECの総会も、大きな成果を収めることはできませんでした。オバマ大統領の会議でのリーダーシップが目立たなかったせいか、話題になったのは、鎌倉で抹茶アイスクリームを食べたことでした(笑)。アジア太平洋地域の各国のリーダーが集まったのにAPECの結果も非常に乏しかった、というのが世界の現状を表しています。

こういう流動的な世の中では対応型外交では非常に危険です。何に対応するか、ちょっと間違えば大変なことになるわけです。

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