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再生はあり得るか?
~日本の将来の可能性と危険性~

ジェラルド・カーティス氏(コロンビア大学教授)によるライブラリートーク

ライブラリートーク政治・経済・国際
更新日 : 2011年02月02日 (水)

第1章 日本人は悲観論が好き。でも最近は本当にあきらめている

尖閣諸島、北方領土、TPPなど外交問題が山積みのなか、民主党は内部でゴタゴタ。これからの日本はどうなるのか…いや、どうすべきなのでしょうか。親日派で知られるジェラルド・カーティス教授が現状を分析し、解決策を提示してくれました。六本木ライブラリーの会員限定イベントの模様をダイジェストでお届けします。
スピーカー:ジェラルド・カーティス(コロンビア大学教授)

ジェラルド・カーティス氏

ジェラルド・カーティス: きょうは将来に向かって、できるだけ前向きに考えて話したいと思っていますが、前向きに考えたくても日本が深刻な問題に直面していると無視できません。問題に取り組んで一つひとつ解決していく、そういう前向きな姿勢が今の日本に求められていると思います。

日本には、ほかの国と比べると、素晴らしいところがいっぱいあります。日本人にとっては当たり前なことでも、外国人が見るとたいへん感心することは多いです。治安がいいこと、行儀がいいこと、清潔感が強いこと、食生活がいいことなど。今の若い人たちは昔ほど勤勉ではないとよく言われますが、ほかの国の同じ年齢の人たちと比べると、やっぱり日本人は勤勉です。仕事に遅刻しない、仲間と仲良くチムーワークをやる。「いいところがいっぱいあるのだから、この国が衰退するはずはない」と思いたいのですが、このままでいけば、日本は衰退すると思います。

今、日本に悲観論があり過ぎます。もともと日本の文化はどちらかというと悲観論を好む傾向があります。私が初めて日本に来たのは1964年の東京オリンピックの年、高度成長の真っ直中で多くの人たちは将来に対して大きな期待を持っていましたが、それでも悲観論は盛んでした。「今は高度成長だけれど、これが長くもつ保障はない」「明日にでもこの国はダメになる」という話はよくありました。『日本沈没』というような小説がベストセラーになるのは日本人の悲観論好みの象徴です。アメリカ人は悲観的になると何かをやるエネルギーを失いますが、日本人は悲観的なことを言いながら「だから頑張らなくちゃ」となる。悲観することが日本の原動力になれるわけです。

でも最近の日本の悲観論は今までとは違うようで、「ダメになる前に頑張らなくちゃ」ではなく、「頑張ってもどうせダメだろう」と、あきらめている人が多くなったような感じがします。将来に対して期待と夢を持てなくなったら、国が衰退することは避けられないのです。

特に、政治に対する絶望感が強い。今(2010年11月現在)、自民党と民主党の支持率はほぼ同じです。これは自民党を積極的に支持する人たちが急に増えたのではなく、民主党に対する失望感が広がって、野党の自民党を支持する人が多くなった程度のことです。この状況でもし解散選挙が行われたら、「どうしよう、どこに入れよう」という国民が一番多くて、結果は予測できません。民主党が人気を取り戻すことも、自民党が多くの有権者の支持を得ることも非常に困難でしょう。早かれ遅かれ政党の再編が起こる可能性は強い。だが、どんなシナリオを描いても、政治が早く安定して思い切ったことができる政権が誕生するとは考えにくいです。

なぜこういうことになっているのか、基本的な問題はどこにあるのでしょうか。日本は潜在的な力があるからそれを掘り起こせば日本の将来は明るいはずですが、何年もやらなければならないことを先送りしてしまえば、よくなる可能性はだんだんなくなります。だから今、どこに問題があるのかということを整理して考えなければいけません。

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