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iPad登場後の出版社のデジタル戦略とは?

電子雑誌にいち早く対応した、コンデナスト社の真意と今後の展望

BIZセミナーオンラインビジネス
更新日 : 2010年11月17日 (水)

第2章 デジタルメディアは人材をより早く成長させる

田端信太郎氏

田端信太郎: デジタルメディアに関わる人と、紙メディアに関わる人と、どちらが早く成長できるかといわれたら、デジタルメディアではないでしょうか。かつて「livedoorニュース」に関わっていた時、リアルタイムのアクセスログを見ながら、見出しを数分単位で変えていました。トライ&エラーを常時やっているようなものです。人間の成長速度と言うのは概ね、その人が経験したトライ&エラーの密度と速度に比例します。

月刊誌では月1回のトライ&エラーしかできません。だからどちらが早く成長できるかといえば、分単位でトライ&エラーのできるデジタルメディアだと思うんです。デジタルメディアは失敗するコストが雑誌に比べてはるかに安く、PDCAを高速で回せるというところに最大のメリットがあります。

既存のマスメディア企業は、自分が発信しているものがどれくらい受け手に届いているかについて、実は極めて無頓着です。私は読者の単なる感想ではなく、行動に与えた影響にこそメディアビジネスの文脈では、大きな意味があると確信しています。つまり「読者ハガキ」で寄せられる一部の意見よりも、サイレントマジョリティの受け手が、どのページを何秒くらい、何回くらい見てくれたかのほうがずっと大事だと思っています。

クリエーションは、「作り手」だけでも自己完結する行為ですが、コミュニケーションというものは必ず、「受け手」を必要とする行為です。つまり「校了で終了」という態度は、コミュニケーションを生業とするプロの態度ではありません。片思いの相手に一方的にラブレターを書きながら、相手が自分のことを好きになってくれたかどうか分からなかった……というのが今までのメディア企業の業務スタイルです。これからは言いっ放しは許されません。とっても心をこめたラブレターなのに、実は全然読まれていなかったというメディア企業にとっての「不都合な真実」が白日の下にさらされる可能性もあります。

『GQ』や『VOGUE』のiPadアプリをご覧になった方はいらっしゃいますか? 新作映画の紹介記事では、そのままトレーラー動画が見られたり、「あの人のiPhone術を盗め!」という記事から直接、その記事でオススメされているアプリを買えたりします。

広告はiPad版にしかない枠があります。iPadは画面も非常にキレイですから、ラグジュアリーブランドが保有する動画CMのディストリビューション・チャネルになれると思います。現状はまだまだ、単なる雑誌のレプリカで、不十分ですが、もっとiPad版ならではのユーザー体験を追求したいですね。eコマースとの連携は当然。例えば、記事を2回タップすれば、どのページを読んでいるか、ツイッターに投稿できるなんていうのも面白いですね。

あとは、誌面にUstreamを埋め込んでイベント中継をやるとか、Evernoteのスクラップ機能と連携することもできます。ユーザー個別の閲読履歴に応じたターゲティング広告の可能性もあります。例えば、昨年の「夏のリゾート特集」でスペインのホテルページを見ていた人だけに、イベリア航空の広告を打つ、という手法も考えられます。

単にユーザーが読むだけではない、双方向性も盛り込みたいですね。『VOGUE』なら、ファッションアイテムを、色や上下の組み合わせを変えながら、着せ替えコーディネートをしてもらい、自分のツイッターやブログ、SNSなどでコーディネート結果をつぶやいてもらう、というように、参加意識を持ってもらいながら、ソーシャルメディア上で拡散していく、というようなアイデアもいいですね。
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該当講座

~iPad登場後の出版社のデジタル戦略を考える~

iPadにいち早く対応したコンデナストの真意と今後の展望

~iPad登場後の出版社のデジタル戦略を考える~
田端信太郎 (LINE株式会社 執行役員 広告事業グループ長)
神原弥奈子 (株式会社ニューズ・ツー・ユー 代表取締役)

田端 信太郎(コンデネット・ジェーピー カントリーマネージャー)
iPadやAmazonのキンドルなど、デジタル化の波に出版業界を取り巻く環境が大きく変化しています。米国でのiPad発表と同時に、iPad対応の雑誌「wired」を発表し、一早く電子雑誌の世界に名乗り上げたコンデナスト社。今回は、そのコンデナスト社のデジタル戦略やiPadへの取組み、日米の出版業界のビジネスモデルの違いなど田端氏にお話頂きます。


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