記事・レポート

天文学と占星術の不思議な関係

渡部潤一氏×鏡リュウジ氏

更新日 : 2010年08月05日 (木)

第4章 占星術は考える星の学問「考星学」だった

渡部潤一氏(左)鏡リュウジ氏(右)

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渡部潤一: ところで「占星術」という言葉は訳語として適切なのでしょうか。星を占うのではなく、星によって地上の世界を占いますよね。

鏡リュウジ: 日本に西洋占星術が輸入されたときは“考える星の学問”、「考星学」と翻訳されていたそうです。これが普及したらよかったのに思う反面、この言葉じゃ普及しないよという感じもします(笑)。

「考星学」を翻訳語として提唱したのは、隈本有尚(くまもとありたか)という近代の天文学者であり数学者です。彼は占星術も学んでいて、19世紀末のイギリスの占星術の本を翻訳して、日本にホロスコープ占星術を紹介したのです。ちなみに夏目漱石の小説『坊ちゃん』に登場する山嵐先生のモデルになった人物だといわれています。

日本のロケット工学の父といわれる糸川英夫博士も『糸川英夫の細密占星術』という本を書いていて、これは今のコンピュータ占星術のはしりみたいなものです。本にはコンピュータで惑星の位置を計算した天文歴が掲載されていて、普通の高校生だった僕でもホロスコープが描けました。ですので、僕の中では天文学と占星術は、わりと近い存在です。

渡部潤一: 糸川先生はロケットの弾道計算をした計算機で、もしかしたら占星の計算もしたのかもしれないですね。糸川先生はバイオリンをつくったりスポーツもしたり、リベラルで教養あふれる方でした。鏡さんも占星術を足場にしながらも、心理学から歴史まで守備範囲が広いですよね。なぜ大学では心理学を専攻なさったのですか?

鏡リュウジ: 僕は未知の隠された世界に惹かれたのであって、格別、星が好きというわけではありませんでした。怪しい世界に興味があったんです。

渡部潤一: 怪しい(笑)。

鏡リュウジ: 怪しげな世界に興味をもちはじめたのは10歳ぐらいのころです。タロットカードと出会って、それから澁澤龍彦や種村季弘という幻想文学の作家に影響を受けて、オカルトの世界に惹かれていきました。僕はオカルトという言葉が大好きなんです。オカルトというと、今はどこかネガティブな印象がありますが、もともとは高尚な言葉だったんです。天文学用語に「オカルテーション」ってありますよね。

渡部潤一: はい。オカルテーションというのは、月などの天体が星をときどき隠す現象ですね。

鏡リュウジ: オカルト(occult)という言葉は「隠されたもの」という意味のラテン語に由来します。自然の隠れた法則を知る、そういうアートのことを15~16世紀のヨーロッパではオカルト・サイエンス、あるいはオカルト・フィロソフィアと呼んでいました。今のサイエンスの前身というか、傍流です。

大学の授業で僕が本当に感動したのは、一般教養でとった科学史でした。渡辺正雄先生の『文化としての近代科学』で科学革命の話を知ってからというもの、毎週その授業に出るのが『東京ラブストーリー』を見るのと同じぐらい楽しみだったのです(笑)。授業で天文学と占星術と文化史というのが、ある見方をすればつながって見えるということを教えていただきました。その教えは今も自分の中に残っています。

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鏡リュウジ (占星術研究家/翻訳家)
渡部潤一 (国立天文台上席教授)

鏡リュウジ(占星術研究家/翻訳家)
渡部潤一(天文学者/自然科学研究機構国立天文台天文情報センター長・アーカイブ室長・総合研究大学院大学准教授)
科学の発展とともに別々の道を歩むこととなった天文学と占星術の不思議な関係についてお話いただきます。


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