記事・レポート
「水が足りない」~ビジネス戦略と地球環境~
朝日新聞GLOBE創刊1周年記念パネルディスカッション
注目のオピニオン
更新日 : 2010年06月11日
(金)
第2章 黄河の断流。中国では、母なる大河が干上がっている
~プレゼンテーション【中国の環境と水問題】~
加藤千洋: 中国の「母なる大河」がとんでもない状況にあるという話を確かめるべく、今年(2009年)、二度にわたり黄河を現地取材しました。
河口から中流、上流、源流へと歩くなかで、私は3つの黄河に出会いました。1つはイエローリバー、その名の通りの黄河です。2つ目は、上流と源流で見た真っ青な黄河。もう1つは黒い黄河で、工業都市の蘭州(らんしゅう)で工場排水が黄河に流れ込んでいました。
中国は世界第4位の水資源量ですが、人口が約13億と多いので、1人当たりの水資源ランキングでは100位以下になります。しかも水資源が南部に偏っているので、首都北京を含む北部は慢性的に水不足の状態です。「豊かな水の国」と「貧しい水の国」という、矛盾した2つの顔を持つのが中国です。
中国の水危機を象徴するのが、河の水が途中で干上がって渤海湾まで届かない「黄河の断流」です。90年代に顕在化し、一番ひどかった1997年は1年で226日も断流しました。この冬、河口に行ったところ、黄河の最下流が多摩川のように小さな川になっていてびっくりしました。
青海省のチベット高原、標高が5,000メートル近い山中で、黄河の最初の1滴が生じるのですが、その水源地帯も環境変化が猛烈な勢いで進んでいます。
私たちは、標高4,200メートルの町・瑪多(マトゥオ)にベースキャンプをつくりましたが、住民によると、「かつては土を掘ると1mで永久凍土層にぶつかった。今は3m掘り下げないとぶつからない」ということです。辺りでは草原が消え、一部では砂漠化が始まっています。
源流地帯には、大小合わせて4,000以上の沼や湖、池などの湿地帯があります。この4,000のうち2,800が先年、干上がってしまいました。マクロの数字でいうと、現在、黄河の平均的な年間総水量は約550億トン。1950年代は約800億トンでしたから、すでに30%近く水が減っているのです。
断流現象について、中国政府も手をこまねいているわけではなく、さまざまな施策を講じ、その結果、2000年以降は何とか断流の発生を防いでいます。
もう1つ、大きな野心的なプロジェクト「南水北調」が進行中です。南の長江流域の水を、総延長3,000kmのパイプで北の黄河流域地帯に調達するというものです。第1期工事は2007年に着工され、すでに一部利用されていますが、中央と地方の難しい関係の改善や、水利施設の老朽化や管理の悪さなどを改善しないと、中国の水問題は根本的に解決しないでしょう。
中国が今後も安定的に経済発展を遂げるうえで、この水問題は大きな制約要因になるのではないかと考えています。
記事をシェアする
ブログに書く
この記事のURLはこちら。
http://www.academyhills.com/note/opinion/10060202AsahiGLOBE.html
関連リンク
「水が足りない」~ビジネス戦略と地球環境~ インデックス
-
第1章 水が環境に与える好都合な真実と、今そこにある危機
2010年06月02日 (水)
-
第2章 黄河の断流。中国では、母なる大河が干上がっている
2010年06月11日 (金)
-
第3章 日本国民が、国と自分の将来を不安視する3つの理由とは?
2010年06月21日 (月)
-
第4章 前原国土交通大臣が描く、4つの成長戦略
2010年06月28日 (月)
-
第5章 世界3大「水メジャー」に対抗する日本チームをつくりたい
2010年07月06日 (火)
-
第6章 水ビジネスで国際競争力に勝つかぎは「システム」
2010年07月15日 (木)
-
第7章 日本の強みは雨水利用と節水技術
2010年07月26日 (月)
-
第8章 ODAの壁。装置納入後、5年過ぎたら運転保守ができない
2010年08月03日 (火)
-
第9章 日本の食料自給率向上=地球の水ストレス減少
2010年08月12日 (木)
-
第10章 日本の技術を活かせば、ビジネスと途上国支援を両立できる
2010年08月23日 (月)
注目の記事
-
03月26日 (火) 更新
動的書房 ~生物学者・福岡伸一の書棚
目利きの読み手でもある生物学者の福岡伸一による、六本木ヒルズライブラリーのための選書書棚「動的書房」。2024年3月に新たに21冊が並びまし....
-
03月26日 (火) 更新
本には、人生を変え、時代を創るパワーがある!
2023年4月から2024年2月まで全6回で開催したシリーズ「編集者の視点〜時代を共に創る〜」。モデレーターの干場弓子さんと何度も企画会....
シリーズ編集者の視点〜時代を共に創る〜 <編集後記>
-
03月26日 (火) 更新
【重要】「アカデミーヒルズ」閉館のお知らせ
「アカデミーヒルズ」は、2024年6月30日をもって閉館させていただくこととなりました。これまでのご利用ありがとうございました。閉館までの間....
現在募集中のイベント
-
開催日 : 04月09日 (火) 12:00~12:45 / 04月09日 (火) 19:00~19:45
ゆる~くつながろう!メンバー雑談
テーマなし!年齢制限なし!ライブラリーメンバーなら誰でも参加できる雑談イベントです。肩の力を抜いて楽しく、そしてリラックスした45分を過ごし....
-
開催日 : 04月19日 (金) 19:00~20:30
地図・絵画・日記が語る
江戸時代は厳格な身分制社会の一方で、身分や職業を超えた文化交流の場が形成され、技術と文化の発展を促しました。その中で「浮世絵」は情報メディア....
江戸の「街づくり」「モノづくり」の遺伝子
-
開催日 : 05月02日 (木) 見学ツアー11:00〜12:00/オルガン・プレコンサート13:40~/コンサート14:00〜16:00頃
【メンバー対象イベント】日本フィル&サントリーホール
平日2時のクラシックコンサート「にじクラ~トークと笑顔と、音楽と」のリハーサルを体験しませんか?俳優・高橋克典さんがナビゲーターとなり、上質....
「にじクラ」リハーサル見学・ロビーツアー&昼公演鑑賞