記事・レポート

戸田奈津子氏が語る「映画の魅力を表現する字幕翻訳」

~1秒4文字、10文字×2行の世界~

更新日 : 2010年04月27日 (火)

第6章 字幕の世界に入るまで、20年かかった

戸田奈津子氏

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戸田奈津子: 字幕を仕事にしようと思ったものの、「一体、誰が、どこで、どうやって」しているのかが全然わかりませんでした。インターネットなんてない時代ですから、調べようがない。そこで自分なりに映画会社に行ったりしたら、当時、映画の字幕をしていたのは男性ばかりだということがわかりました。私から見たら本当に立派なおじ様たちが5、6人でやっている、そんな世界だったのです。

そんなところに大学を出た女がトントン、「入れて」と言っても、入れてくれるわけがない。第一、たたく扉がないんです。「狭き門」と言いますが、門なんてない、壁で囲まれた世界だったのです。その中に男性が数人いて、その仕事を全部そこでガッチリやっていました。

そういう世界とわかり、私は呆然としました。「やっぱり世の中は甘くないんだ。いくらやりたいと思っても、『いらっしゃい』と手招きしてくれるような魅力的な仕事なんてあるわけがない」ということだけがわかりました。これは何でも同じですね。世の中に出たら、自分の好む仕事のほうから呼んでくれることは絶対ありません。自分からチャレンジしなければ、絶対に攻め落とせません。

私は狭き門もなき壁の外で、結局、何と20年間待ちました。字幕の世界に入るまで、20年です。そして40歳を過ぎてから、念願の仕事ができるようになったのです。それぐらい厳しい、特殊な社会でした。

この業界、今でもドアがないことは同じです。でも、中にいる人間が男性だけではなくなったということは1つ変わりました。私をはじめとして、女性がとても多くなりました。でも、日本で映画翻訳者は20人は必要ないのです。十数人いれば、日本に入ってくる洋画を全部こなせます。30人、40人と翻訳者がいても、絶対に仕事は来ないという受け皿の現実があるのです。

十数人というのも、かなり譲って言っている数字で、その中で365日、それでご飯を食べられる人は更に少ない——という特殊な職業です。そういうものとは知らず、でも私はどうしてもやりたくて、しぶとく目指して、一応望みの仕事ができるような立場になりました。

字幕業界は特殊だということのほかに、技術的にも、皆さんが考えるほどやさしい仕事ではありません。何でもそうですが、プロの仕事というのは外目には簡単に見えますが、「やってみろ」と言われたら、やれるものではありません。

最近は日本人の英語レベルが向上しているし、帰国子女で語学に堪能な方もいます。だからアメリカ映画を観たとき「私、この英語わかる! 私も字幕をやりたい」と思うようですが、そんな簡単なものではありません。

この仕事は英語がわかるだけでは話にならない。英語がわかるのは当たり前、それはスタートラインです。大切なのは日本語です。日本語ができなければ、翻訳にしろ、通訳にしろ、絶対できません。「語学さえできれば」と思っておられるなら、それは全く違います。日本語が大事なのです。

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映画の魅力を表現する字幕翻訳
~1秒4文字、10字×2行の世界~
戸田奈津子 (映画字幕翻訳者)

戸田 奈津子(映画字幕翻訳者)
10月の六本木ヒルズクラブランチョンセミナーでは映画字幕翻訳者の戸田奈津子氏をお迎えします。「字幕翻訳者になりたい」と、夢を叶えるために、ゼロから出発し、門のない世界に挑み続け、字幕翻訳者として活躍するまでに20年間の歳月を振り返り、映画に魅せられたご自身の人生と、1秒4文字、10字×2行という厳しい文字制限の中から生まれる字幕翻訳の世界についてお話いただきます。


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