記事・レポート

新書本—軽装な冊子が森羅万象を映す

ブームの理由から“おすすめの新書本”をすすめる新書本まで

更新日 : 2010年03月12日 (金)

第3章 手軽な啓蒙書としての新書本

六本木ライブラリー カフェブレイクブックトーク 紹介書籍

academyhillsをフォローする 無料メルマガ登録をする

澁川雅俊: 軽装のポケット判という外形状の際だった特徴は、読書の姿形も変えることになります。つまり、それを机に向かって正座して読むこともできるが、“ながら読書”つまり何時も持ち歩きができ、通勤通学途中の電車の中でも、ちょっとした待ち時間にも、食事や喫茶しながらでも、散歩の途中で一休み中にも、夜寝る前の布団、あるいはベッドの中でも何時でも読むことができる、つまり時間があればいつ、どこででも読むことができるという点では文庫本と同様です。

単行本と新書本を内容的に比較してみると、どのような違いがあるのでしょうか。単行本は重厚なテキストのものというイメージがあります。しかし、いろいろと観察してみると必ずしもそうとは言い切れません。単行本は、あらゆる読者層のさまざまな読書ニーズに対応して出版されていますので、学術書、専門書、入門書、啓蒙書、大衆書、ハウツウもの、資格取得参考書、辞・事典、児童書などと多様なタイプのテキストがあります。

しかし新書本に学術書、専門書、辞・事典、児童書などに相当するものはほとんどありません。ではそれは大衆書かというと、必ずしもそうではありません。最近のシリーズの中には、入門書やハウツウものや資格取得参考書的なものも出されていますが、その主流は、ハイ・クオリティ(高質)なテキストの啓蒙書です。

【激変する現在の状況を適正に捉えることができる高質なテキスト】

高質なテキストの啓蒙書ということについては、また「岩波新書」の創刊にまでさかのぼることになります。『岩波新書の歴史』(鹿野政直、06年岩波新書)によると、歴史的・古典的な思想・思考・信条を現代人に広く知らしめる必要性に基づき、歴史書や古典籍を普及するために刊行(1927年創刊)された「岩波文庫」に対して、「岩波新書」は、「激変する現在の状況を適正に捉えることができる教養を現代人自らが養う拠り所を提供」しようとする考えの下で創刊されたことと関連します。

いずれも造本的には軽装で、高質なテキストであることは共通しますが、前者がものごとの本質をじっくり捉えるための拠り所となる重厚な読み物であるのに対して、後者は私たちの身の回りに現れるものごとをどう捉えるかの手掛かりになる手軽な読み物ということになります。ここで言う“啓蒙的な”は、この「現代の状況を適正に捉えることができる教養」を意味します。そして他の新書シリーズでも、おおむね、その方向で刊行されるようになりました。

それでは「教養」とは何かということになります。教養に相当する英語“culture”を『Oxford English Dictionary』で調べてみると、「(作物を立派に育てるために)土を耕す、肥えさせること」だとあります。非常に意味深長ですね。また『12賢者と語る 和らぐ好奇心』(石黒和義、09年日経BP企画)にはこんなことが書かれていました。

「……教養について、あらためて説明しようとすると言葉に窮してしまう。少なくとも、単なる博識ではない。物事の考え方や、それを高めていく姿勢、さらには人格まで問われると、これはやすやすと身につくものでもない。教養は常識の上に形づくられるものと考えられているが、では常識のない人には教養がつかないかというと、そうともいえない。専門性を高めることによって、個性豊かな教養を身につける人もいるから、これは人それぞれである。……世の中には想像をこえた途方もない人たちが多くいる。このような人たちを鏡にすれば品位のある教養を身につけることも現実味を帯びてくる。……」

記事をシェアする

Twitterでつぶやく

Twitterでつぶやく

記事のタイトルとURLが表示されます。
(Twitterへのログインが必要です)


メールで教える

メールで教える

メールソフトが起動し、件名にタイトル、本文にURLが表示されます。



ブログを書く

ブログに書く

この記事のURLはこちら。
http://www.academyhills.com/note/opinion/10022403NewBook.html


新書本—軽装な冊子が森羅万象を映す インデックス