記事・レポート

環境とビジネスは両立するか?

~答えはYes。具体策を提示します~

更新日 : 2010年01月19日 (火)

第7章 新しいルールのつくり方

竹中平蔵氏(左)三橋規宏(右)

竹中平蔵: 今までタダだと思っていた地球環境が、これ以上許容量がないという意味で無限大のコストになるものだということがわかってきたわけです。相対コストが変わったので、私たちのライフスタイルを変えなければいけないのですが、そこにうまく誘導するためには適切に規制された枠組みが要るということですね。その事例をきょうはいくつか挙げてくださいましたが、一貫しているのは「インセンティブ」だと思います。では、そのインセンティブをどのようにつけていったらいいのでしょうか。

ルールをどのように決めたらいいかというときに、「ハードローとソフトロー」(hard lawとsoft law)という考え方があります。国際関係の分野でジョセフ・ナイがハードパワーに対してソフトパワーと言ったのですが、今、法律の分野でハードローに対してソフトローというのが出てきています。

これは「ルールベースではなく、プリンシプルベースでやろう」ということです。ルールというのは細かいことを決めるものですが、とても決められないので、プリンシプルを明確にしておいて、そのプリンシプルのもとで業界が自主規制をつくったり、個人が自主ルールをつくったり、分権型でやろうということです。

なぜこんなお話をするかというと、日本の場合はルールでガシッと決めるよりは、人々が感じるソフトローのようなもの、自主的な規制のようなものをうまく組み合わせることで、何か新しいインセンティブをつくっていけるのではないかという思いがあるからです。

そういう新しいインセンティブの与え方について、それこそ20世紀型ではない、資源収奪時代ではないルールづくりが必要になってきていると思うのですが、三橋さんはどうお考えですか。

三橋規宏: 新しいルールを地域の人たちや思いを同じくする人たちが自分たちでつくる、それを行政が受け入れるという新しいルールができれば、ソフトローの考え方は、大きな効果が期待できると思います。現状では、行政は過去の制度にこだわり、新しいルールを地域や住民が提案すると、「それは法律違反だ」と反対します。そういう介入がなければ、おっしゃるようにソフトローの考え方はこれからの時代に必要だと思います。

1つの思いを共有する形でビジネスが成立している例を挙げると、株式会社カタログハウスがそれに近いと思います。カタログハウスが『通販生活』に掲載するものは「エアコンだったら、この会社のこの製品」「冷蔵庫だったら、この会社のこの製品」というように、それぞれの分野で1種類です。カタログハウスが環境配慮、エネルギー効率などの指標で独自にチェックして、推奨する商品を決めています。 

「環境に配慮した製品を1つ選びますので、それを買ってください。そのかわり、できるだけ長く使ってもらえるようにします」ということで、同社はメーカーに対し、通常1年間の無料修理期間を3年に延期するよう要請しています。また修理部品の保有期間を10年間保有するように求め、メーカーの同意を得ています。さらに、メーカーで修理できなくなった製品に対しては、同社の中に「もったいない課」を設け、有料修理できるようにしています。

自社が売った製品はとことん長く使ってほしい、長寿命製品であってほしいという理念で経営し、『通販生活』の購読者、約140万人を中心に販売しているのですが、それで高い収益をあげています。企業と購入者は使命共同体のようになっています。そういう形のビジネス例はいくつもあります。

関連書籍

よい環境規制は企業を強くする —ポーター教授の仮説を検証する—

三橋規宏
海象社


該当講座

環境とビジネスは両立するか
三橋規宏 (千葉商科大学政策情報学部教授/環境・経済ジャーナリスト)
竹中平蔵 (アカデミーヒルズ理事長/慶應義塾大学名誉教授)

三橋 規宏(環境・経済ジャーナリスト)×竹中 平蔵(アカデミーヒルズ理事長)
従来は相反すると考えられてきた「環境と経済」をどのようにすれば両立させられるのか、三橋氏と竹中理事長にお話いただきます。


BIZセミナー 環境