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今、日本が大切にすべき“プリンシプル”を考える

~『白洲次郎 占領を背負った男』著者北康利、竹中平蔵が白洲次郎を語る~

更新日 : 2009年10月23日 (金)

第4章 白洲次郎は一私企業のエゴより、国全体の利益を考えた

竹中平蔵氏(左)北康利氏(右)

北康利: 私は白洲次郎のご長男にインタビューしましたが、「子どもに対してはいい親父でした。しかし白洲次郎の息子でいいことは一度もありませんでした。ずっと新聞で叩かれて『お前の親父、ひどい親父や』と言われ続けました」とおっしゃっていました。

彼は戦後日本に外資を導入しました。そのときに「マージンをとっているのではないか。吉田茂の陰にいて、外資を導入することで利権を得ている化け物だ」と、新聞は叩きに叩いたのです。

ただ、私が調べれば調べるほど、白洲はよく耐えたと思います。考えてもみてください。焦土になった日本に、海外の誰がお金を貸しますか? 今は内需、内需と言っていますが、焦土の国に内需などないわけで、海外からお金を貸してくれる人を探してこないと、とても日本の健全な復興などできなかったのです。

どれだけ悪口を言われていても、「俺はケンブリッジを出た。英語も達者で人脈も持っている。俺がやらねば」という気概。これこそノブレス・オブリージュです。これは大事なことだと思います。

調べれば調べるほど、彼のすごいところがわかってきました。「電力の集中はよくない」とGHQに言われ、白洲は電力会社を地域電力に9分割するのですが、そのときに電源開発、今のジェイ・パワーシステムズの設立構想が発案したのです。9電力のトップは「何のために民間の電力会社があるんだ。電発なんて要らない」と全員反対。しかし、白洲は東北電力の会長時代、「必要だ」と主張しました。

工場のモーターを回すためにダムを建設したいが金が要る。民間では無理だし、海外から金を借りるのも難しい。東北電力だって倒産するかどうか。しかし、親方日の丸の100%政府出資の会社だったら、「借款出してやろうか」となる。それを彼はわかっていたわけです。

東北電力の会長であっても、日本全体のことを考えたら必要だと、一私企業のエゴより日本全体を豊かにすることを選択する生き方。かつ、白洲はそれを周りに「俺偉いだろう? ほかの人間が気づいていないことに気づいたんだ」などとは一切自慢せずに淡々と仕事をしたのです。

そして通産省をつくっても、大臣にも次官にもならず去っていった。これはなかなかできることではありません。白洲の印象は背が高い、ルックスがいいなど外見にどうしても目がいきがちですが、彼の本当の格好よさは、この生き方、そして何事にも固執しなかったことにあるのです。

彼の最後の遺言「葬式無用、戒名不要」。この言葉は、「俺は“プリンシプル”に沿って生きた、何も後悔することはない」ということで格好いいと思います。

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北 康利
講談社

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今、日本が大切にすべき“プリンシプル”を考える
北康利 (作家)
竹中平蔵 (アカデミーヒルズ理事長/慶應義塾大学名誉教授)

戦後の激動の時代に、日本に誇りを持ち、日本のために自分の役割を誠実に全うした白洲次郎の「生き方」から、我々は多いに学ぶことができるのではないでしょうか。
今回は北康利氏と竹中平蔵アカデミーヒルズ理事長が「今の日本人に求められる“プリンシプル”とは何か」を、白洲次郎の生き方から議論します。


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